「コンビニ百里の道をゆく」は、48歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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ビジネスの現場で「交渉」は避けて通れません。特に、商慣習が違う外国企業との交渉は厳しいものになることが多い。これまでのうまくいかなかった経験から学んだことがあります。
まず、テクニックに走りすぎないこと。交渉を有利に運ぼうとして、最初に高い条件を提示して相手の反応を探ったり、交渉カードを小出しにしたりしても、ほとんど意味はありません。グローバルスタンダードの今、小手先の策を弄しても「国際標準を知らない面倒なやつだ」と思われるだけです。
それよりも、交渉相手は自分たちをどう見ているのか、自分たちと取引するとどんなメリットがあるのか、どこがクリアになれば相手と交渉を成立させられるのか、などを整理して、シンプルな条件を示すことが大事です。この事前準備と整理ができていると、引くべきところと引かざるべきところが明確になります。
また、退場する時のルールも決めておくことが重要です。ビジネスでは常に状況が変化します。最初はうまくいっても、状況次第で目論見通りに進まないこともある。タフな相手ほど軌道修正は難しい。それゆえ、交渉の段階で「事業から撤退する条件」も示して同意を得ておく必要があります。ビジネスパートナーとは一つのビジネスでうまくいかなくても、中長期的な関係性を目指すのが基本です。「出口」を明確にすることで、次につながる良好な関係を維持することができます。
時には、交渉から降りる勇気も必要です。交渉の最中は熱くなり、視野が狭くなりがちで、担当者は不利な条件をのんででも「まとめなければ」と必死になる。でも冷静に俯瞰してみれば、急ぐべきか時間をかけるべきか見えてくるものです。上司が担当者に、「急ぐ必要はない。冷静に」と助言してあげることも必要です。不利な条件が変わらなければ、降りればいいのですから。相手に伝える熱意は持っても、判断は冷静に。これが交渉ごとの大前提です。
※AERA 2018年8月13日-20号