「ウソつき=悪」ではなく、社会の弱者としてとらえ、寄り添おうとする人がいる。都内で家事代行やサポートを手がける(株)御用聞きの代表取締役、古市盛久さん(39)。「部屋を片づけられない」「電球を替えられない」など、ちょっとした困りごとを5分100円から受け付ける。依頼者の多くが高齢者だ。
古市さんによると、中高年でウソをつく人は、二つのタイプが多いという。
ひとつは、定年退職した男性。テレビに出てくる有名人の名前を挙げ「一緒に仕事をした」「海外を飛び回っていた」などと輝く人生ストーリーを語る。夫が「仕事に使うから本は捨てないで」と言うと、妻が「仕事なんかしてないくせに」と怒り、けんかになったりする。
そんな人たちに対し、古市さんは作業しながら「えーっ、本当に!?」と驚きながら話を聞く。ちょっぴり疑いの目を向けつつも、決して「ウソついちゃダメですよ」などと否定しない。
「目の前に現れた僕らのような若造に対して、きっと対外的な自分を見せたいんだと思うんです」と古市さん。そして、そこには自分の人生の現在地に対する「憤り」も含まれているのではないかと考える。約8年間、6千件あまりの御用聞きで得た答えだ。
もうひとつのタイプは、女性に多いという。依頼を断られるのを恐れてつく、小さなウソだ。「庭の木の小枝を切って。5分で終わるから」と言われて駆けつけると、極太の幹だったりする。しかし、おしゃべりしつつの作業が終わるころ、依頼者の表情は一様に和らぐという。
「時間の長短はあるが、本音で話せる関係性を構築すると、みなさんウソをつかなくなる」
ウソはいけないと否定するよりも、ウソをつくことで自分を支えている現実に寄り添うこと。一見遠回りに見えるが、それが彼らを救済する術ではないか。古市さんはそう信じている。(ライター・島沢優子)
※AERA 6月11日号より抜粋