報道の当日、愛媛県の中村時広知事は記者会見を開き、この文書が「備忘録」だと認めた。非公式文書のため保管はしていないものの、担当職員による「真正」であることを発表した。一方、昨年7月の衆参予算委員会でこの15年4月2日の愛媛県職員との面会について「記憶をたどる限り、会っていないと思う」と繰り返した柳瀬氏は、今回も重ねて面会を否定した。この二項対立の解は一つしかない。愛媛県職員と、キャリア国家公務員の柳瀬氏のどちらかが、嘘をついているということだ。そして、中村知事は会見で「県の職員は文書をいじる必然性は全くない」と強調した。
面会内容を忘れまいと記録した文書と、記録のない柳瀬氏の記憶。4月11日の衆院予算委員会集中審議で複数の野党議員から、どちらが正しいのかと追及を受けた安倍首相が放ったのが、冒頭の言葉だ。証拠となる記録をもとにした質問に「証拠の証拠を出せ」と子どもじみた感情を爆発させたようなものか。
●文書が正しいと致命傷
真実は一つだが、愛媛県職員の文書のほうが正しいと、安倍首相には致命傷になる。これまで繰り返してきた答弁が全てひっくり返り、国民に「嘘つき首相」だと証明してしまうことになるからだ。この4月、愛媛県今治市に開学した加計学園の岡山理科大学獣医学部は、県と同市が07年から14年にかけて構造改革特区として計15回申請し、全て却下されてきた経緯がある。これに対し、首相主導の国家戦略特区は第2次安倍内閣の経済政策として14年に指定が始まった。そして15年6月4日、今治市が国家戦略特区での獣医学部新設を提案し、16年1月に同市が国家戦略特区に決定。前川喜平・前文部科学事務次官によれば、同9月には内閣府が「官邸の最高レベル」からとして文部科学省に「18年4月開学を大前提に」と指示をした。17年1月4日、獣医学部新設を18年度開設の1校に限って募集。加計学園のみが応募し、同1月20日に事業者として認定された。愛媛県職員が残した「備忘録」の通り、国家戦略特区はとてつもない勢いがあった。
安倍首相は加計学園の獣医学部新設計画を初めて知った時期を、この事業者として認定された日であると、昨年7月の衆参予算委員会で説明し、以降も一貫してそう主張してきた。加計氏とは米国留学時代から続く40年来の親友で、頻繁にゴルフや会食を繰り返してきた間柄なのに、である。ある自民党関係者はこう呆れる。