「18歳人口が減り続けていく中で、獣医師養成は量より質の充実を目指す方向で文科省でもずっと検討を続けてきた。実際に農学部獣医学科を持っていた山口大学と鹿児島大学が教員交流や設備の共有などによる『共同獣医学部』を12年にスタートさせている。最大規模の獣医学部を新設するというのは方向性が正反対です」(前川氏)
しかも、構造改革特区とは地域限定でやってみてうまくいったらその事業を全国展開するというものだから、これとも趣旨が合致しない。故に、必敗だった。そこで、誰かが知恵をつけたのか、国家戦略特区での申請に切り替えた。「産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成の推進」が基本方針で、構造改革特区よりもさらに獣医学部の新設とは趣旨が噛み合わないはずだ。大きく異なるのは所管が内閣府であり、認可に文科省の拒否権が及ばないことである。
15年4月2日に加計学園と愛媛県、今治市の担当者が官邸で顔を合わせ、6月に提案。しかし同月末の閣議で既存の獣医師養成でない構想が具体化されていることや、既存の大学・学部では対応が困難であることなどの4条件を満たさない限り、国家戦略特区での獣医学部新設は認めないとする決定がされたが、結局は官邸が力で押し切った格好になった。
前川氏は言う。
「例えば薬学部は新設に規制がないから乱立して定員割れも続出している。しかし、志願者数が安定している獣医学部を1校に限って新設を認めるのは、特権の付与にほかならない。4条件の精査だけでなく、あらゆる角度から再検証が必要なのです」
(編集部・大平誠)
※AERA 2017年11月20日号