2000年に本のECサイトとして日本に上陸したアマゾン。いまやあらゆるものを扱い、他の追随を許さない巨大ECサイトに成長した。一方で、アエラが行ったアンケートでは、回答した137人のうち「アマゾンを使っている」と答えた人が96%。同時に、「できれば使いたくない」と答えた人が44%もいた。拡大の原動力は。便利なのに不安にさせるものの正体は。AERA 2017年7月24日号では「アマゾン」を大特集。アマゾン・ジャパンのキーマンたちに話を聞いた。
アマゾンは、その中で「勝つ」だけで億単位の売上高や万単位の販売個数をもたらしてくれる巨大市場。問題は、勝ちをつかんだ後はどうするか、ということだ。
* * *
アマゾンの豊富な品ぞろえを支える「マーケットプレイス」。日本国内だけでも数十万の個人・法人が商品を出品し、しのぎを削る。
そのマーケットプレイスで、モバイルバッテリー販売のトップを走るアンカー・ジャパンは、2012年にマーケットプレイスに出品し、翌年に日本に拠点を構えた中国本社の企業。初年度の売上高は10億円に満たなかったが、現在は70億円以上を売り上げる。マーケティング担当の猿渡歩さんによると、価格を下げるだけでは中国企業との「たたき合い」になる。ウルトラCもない。ユーザーの望む品質やスペックを知るのに役立ったのが「レビュー」だった。
レビューを書き込めるのは購入者のみというサイトも多いが、アマゾンにその制限はない。レビューが荒れる危険性がある一方で、率直な意見を商品改良に生かすこともできる。アンカーは、「スピーカーの低音が弱い」などの声一つ一つに応じ、顧客の評価を高めていった。
●リアル店舗で販路拡大
アマゾンの配送網を活用できたことも大きかった。アマゾンはマーケットプレイス出品者に向けて「フルフィルメント by Amazon」というサービスを提供中。月額5千円ほどで、商品の保管から注文処理・出荷・配送・返品までを担ってくれる。
「母体の小さいハードウェアベンチャーにとっては、注文から配送まで一気通貫で対応してもらえる仕組みはありがたい」
と猿渡さん。人的コストや在庫保管費用なども節約できた。
アマゾンで「勝った」ことが、リアル店舗での販路拡大につながったケースもある。持ち物に付けると、手元から離れたときにスマートフォンに通知してくれる紛失防止タグを生産・販売するMAMORIOがそうだ。自社サイトで販売していた16年は1日に数個しか売れないこともあったが、17年1月にアマゾンに出品すると販売個数が激増。すでに数万個を売り上げた。
ヨドバシカメラやビックカメラなどリアル店舗でも販売を開始。ブランド力のないメーカーが量販店で商品を売る場合、マージンや価格設定などで厳しい交渉を強いられることが多いが、MAMORIOの増木大己社長によれば、「アマゾンで売れた実績」が有利に働いた。
「アマゾンローンチパッド」を使ったことも大きかった。ストア内に設けられた、ベンチャー企業のユニークな商品に特化したカテゴリーで、アマゾンの審査を受け、プラスαの手数料を支払うことで販売できる。
●他のサイトにいない層
一定の知名度とブランド力のある企業でも、「アマゾンで勝つ」ことに意味を見いだすケースは少なくない。ファッション業界ではEコマースの「勝ち組」とされるユナイテッドアローズもその一つだ。ゾゾタウンや自社サイトで売り上げを伸ばす一方、10年からアマゾンにも出品。ユナイテッドアローズのデジタルマーケティング部・木下貴博部長はこう話す。
「アマゾンには他のファッションサイトにいない顧客がいる」
新規顧客獲得につながる可能性があるのだ、と。
一方で、マーケットプレイスに出品する企業を悩ませるのが、アマゾンとの距離感。アマゾンは出品企業に顧客データを活用したマーケティングを禁じている。どの商品がいくつ売れたかはわかっても、購入者のメールアドレスなどは開示されない。出品企業自身が一度購入してくれた顧客に、メールで再購入や関連商品をすすめるといったことはできないのだ。
MAMORIO増木社長の、
「依存しすぎるのは危険」
という言葉は出品企業共通の実感だろう。
(編集部・市岡ひかり)
※AERA 2017年7月24日号