福島第一原発事故後、期待を背に船出した原発の番人、原子力規制委員会。だがどうしたことか。過去に公開したはずの情報を隠し始めているという。
【写真】原子力安全・保安院が原子力安全委員会に送った文書はこちら
写真の二つの文書を見比べてもらいたい。二つとも中身は同じ。2006年4月に原子力安全・保安院が原子力安全委員会(原安委)に送った文書だ。片方はすべて読み取ることができる。もう一方は、表題と数行の内容以外は、ほとんど真っ黒に塗りつぶされ、肝心な情報はわからない。読み取れるほうは12年5月17日、保安院が記者会見で配布したもの。黒塗りは17年4月3日に原子力規制委員会(規制委)が、筆者の請求で開示したものだ。
この文書の表題には「『発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針』改訂に向けて注意すべき点」とある。「耐震設計審査指針」というのは原発の建築基準法に相当するもので、この文書が出された5カ月後、28年ぶりに全面改訂された。それまでに造られた東京電力福島第一原発のような古い原発はすべて「既存不適格」とされてしまう恐れがあったため、そうならないように保安院が原安委に対し、新指針を古い原発に適用しないように圧力をかけた文書だ。
●2年前にネットも削除
文書開示した規制委とは、福島第一原発事故後の12年、保安院と原安委が統合した組織で、旧2組織が出した文書を管理。ただこの件については、原発事故を防げなかった保安院が黒塗りにした文書を、規制委が明らかにするのならまだ分かる。事実は全く反対だ。それどころか、規制委は黒塗りの理由を、「国の争訟に対処するための方針が含まれているものであることから、公にすることにより、国の訴訟当事者としての地位を不当に害するおそれがあり、情報公開法第5条第6号ロに該当するため、不開示とした」と説明してきた。
だが冒頭でも説明したように、この文書は5年前に保安院が記者会見で配布した資料である。調べてみると、保安院のホームページも情報公開資料として掲載。グーグルのような検索にはひっかからない仕組みで見つけにくいが、国会図書館のウェブアーカイブをたどると、ネット公開していた状況が確認できる。