米中首脳会談に照準を合わせたかのような、北朝鮮の弾道ミサイル発射。危機を演出する一方で、南北交流を繰り出す硬軟取り混ぜた北朝鮮の瀬戸際外交が続く。
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それは久しぶりに見た「美しい光景」だった。
4月6日夜、韓国東部・江原道江陵(カンウォンドカンヌン)市であった女子アイスホッケーの韓国─北朝鮮戦。前日の5日には北朝鮮が弾道ミサイル1発を日本海に向けて発射したばかり。北朝鮮対応で緊張が高まる米中首脳会談を前に見せた融和策だ。
●南北ホッケーで融和策
人口21万人の江陵市は、来年の平昌(ピョンチャン)冬季五輪の開催予定地。南北戦は五輪プレ大会を兼ねた世界選手権の一環だ。北朝鮮が韓国での国際試合に選手団を送るのは2014年の仁川(インチョン)アジア大会以来で、選手団はコーチらを含めて30人。自国の応援団の姿はない、アウェーだったが、観客席を埋めた韓国国民は温かかった。振られたのは白地に青色で朝鮮半島を描いた「統一旗」。しかも、北朝鮮のヒット曲「パンガップスムニダ(お目にかかれてうれしいです)」を大合唱し、平均身長約160センチの北朝鮮代表にも声援を送った。
試合は北朝鮮が韓国に0対3で完敗したが、北朝鮮の選手団もそれに応えるかのように韓国選手団との記念写真に納まった。地元・江原道の崔文洵(チェムンスン)知事は、同行の北朝鮮体育省幹部から「平昌五輪では可能な限り多くの競技に出たい」との意向を伝えられたと披露した。かつて北朝鮮に融和姿勢をとった金大中(キムデジュン)大統領、盧武鉉(ノムヒョン)大統領時代の「太陽政策」が復活したかのような一夜だった。
もとより、北朝鮮に核ミサイル開発を放棄させる韓国政府の強硬政策が変化したわけではない。昨年12月の朴槿恵(パククネ)前大統領の職務停止後、外交・安全保障は黄教安(ファンギョアン)首相(大統領権限代行)が担うが、米韓同盟を軸に北朝鮮包囲網を強化する朴前政権の路線を全く変えていない。このため「南北戦」について、韓国統一部は、「たまたま北朝鮮が参加する国際大会が韓国で開かれ、国際的慣例や手続きに従って入国を許可しただけだ」と過大視されるのを警戒している。