外国人排斥や女性蔑視など、批判が集中する発言を繰り返しながらも勝った。なぜなのか。米国に在住する作家、冷泉彰彦氏に読み解いてもらった。
* * *
1年前までは単なる泡沫(ほうまつ)候補と思われていたドナルド・トランプ氏が、どうして巨大な民意を獲得したのか? そのメカニズムは、アメリカのメディアや専門家も十分に分析しきれていない。だが、一つ指摘できるのは、あの「暴言・放言スタイル」が明らかに支持されたということだ。
では、トランプ氏の支持層は本当に人種差別を行おうとしたり、排外的な政策を実行したりしてもらいたいと思っているのだろうか? 確かに「不法移民は強制送還」であるとか「メキシコ国境に壁を造る」といった政策は危険な政策だ。そして、トランプ支持者はその主張を支持し続けたし、トランプ氏自身も1年半の選挙戦を通じて全くブレなかった。
●奇妙なほどのブレなさ
ブレない姿勢というと一貫していて良いということになるが、トランプ氏の場合は、奇妙なほど徹底していた。例えば実際にメキシコを訪問して、面と向かってではないにしても、メキシコの大統領から「壁の建設には反対だしカネも出さない」という立場を明確に突きつけられた後も「壁を造る」と言い続け、そのカネはメキシコに負担させると言い、そして支持者は同じように喝采を送っていた。そのブレなさ加減というのは、明らかに不自然だ。
もう一つ例を挙げると、トランプ氏は今回の選挙戦の以前から「オバマ大統領はアメリカ生まれでない」から「大統領になる資格がない」ということを言い続けていた。そして大統領が実際に出生証明書を提示しても、他の共和党政治家などが誰も言わなくなっても、この「大統領の出生地疑惑」を言い続けていた。そして支持者はそれに喝采を送っていたのだ。
こうした「暴言・放言」に対しては、リベラル派に加えて共和党内の多くも批判を続けていた。「それは不可能だし誤っている」とか「事実でない」という「正論」による批判が何度も何度も繰り返された。
そして、そのような「事実に反する」あるいは「実行不可能な」暴論を言い続けるトランプ氏と、その支持者に対して最後には「能力が低い」とか「教育水準が低い」という批判まで行われたし、ヒラリー・クリントン氏に至っては「どうしようもない人々だ」という批判まで行っている。
だが、実際はそうではなかったのだ。トランプ氏の暴言・放言は、「文字通り」受け止めるべきものではなく、あくまで「現状への不満」という感情を表現する「比喩」に過ぎなかったのである。