逝去を待たずに天皇が退位し、皇太子が新天皇になる──。シンプルなことのようだが、近代日本では直面したことのない事態。生前退位を実現するには、どんな法改正が必要になるのだろうか? 専門家に疑問をぶつけた。
旧憲法と旧皇室典範以来、天皇は終身制とされてきた。現行の日本国憲法と皇室典範にも、退位や譲位に関する記述や規定がない。
法学者たちは、生前退位と法改正をどう考えるのか。
お言葉を真摯に受け止めたという日本大学の百地章教授(憲法学)は、
「天皇制の安定性のためには、譲位は客観的な条件付きで認められるべきだ」
と考えている。その上で、憲法学を研究する者として若干の疑問が残るという。
「よくよくのことと思うが、そこまで踏み込んだ発言をされてよかったのか。立憲君主制の君主は、『君臨すれども統治せず』、常に内閣の助言に従って行動すべきという原則があります」
懸念は国民の反応にもある。朝日新聞の世論調査では、生前退位を可能にすることに84%が「賛成」と回答している。
「今回は、幸い、国民の大多数が陛下のお考えに賛同しているようです。では、国民世論が割れた場合はどうなるのか」
国民統合の象徴である天皇が、国民の分裂を招きかねない事態は避けるべきではないか。
「譲位制は新旧の皇室典範で否定されており、『歴史の重み』がある。今後も終身制を原則とし、例外的措置として譲位の道が開けることが望ましい」(百地教授)
関西大学の高作正博教授(憲法学)は、天皇と人権に注目し、天皇制の維持存続を重視するあまり、これまで憲法が保障する人権と天皇についての議論がなされてこなかったことを問題視する。
「自由意思での譲位が尊重されるべきです。天皇、皇族にも憲法の保障する基本的人権があり、自身の意思で譲位する権利も、究極的には即位しない権利もあるのではないか」
象徴天皇制のもと、天皇は開かれた皇室づくりに取り組んできた。それをもっと前進させることだという。