アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は江戸東京たてもの園の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■江戸東京たてもの園 園長 飯塚晴美(49)
「銭湯の女風呂から人が消える」と言われるほど人気だったラジオドラマ「君の名は」の放送が始まったのが1952年。その23年前に開業した「子宝湯」は、当時の銭湯文化を今に伝える「証人」だ。
建物は神社仏閣を思わせるようなつくりで、玄関上には七福神の彫刻があるなど、贅を尽くしている。93年に、江戸東京たてもの園に移築された。今は、湯は出ないが。
江戸東京たてもの園には子宝湯を始め、江戸時代前期から戦後までに建てられ、現地保存が不可能な歴史的建造物30棟が移築され、公開されている。映画「千と千尋の神隠し」に登場する建物のモデルにもなった「武居三省堂」(文具店)もある。
園長の飯塚晴美=写真右端=の重要な仕事の一つが、これら建物の管理、修復だ。
「古い建物なので、結構、傷んできてもいるんです。ただ、建築技法やデザインなどが珍しく貴重な建物ばかり。どうやって修理すればいいのか、頭を悩ませています」
8人の職員とともに、建築の専門家や学芸員などと相談しながら、最適な修復方法を探っていく。
飯塚は、大学時代に中央ヨーロッパやバルカン地方の踊りに興味を持ち、お茶の水女子大学大学院で舞踊教育学を修了。民俗舞踊の調査のため、ハンガリーへ留学したこともある。大学院時代に、学芸員の資格取得のために、大阪府にある国立民族学博物館に実習に行き、そこで「作品」の持つ力に圧倒された。
93年、学芸員として江戸東京歴史財団(現・東京都歴史文化財団)に就職すると、財団の運営する江戸東京博物館の展示や資料収集、東京都庭園美術館の管理運営などを担当し、昨年、現職に就いた。
「建築の専門家ではないのですが、知らない人の目線で歴史や文化などを解説できるので、そこは強みです」
古きよき建物の持つ力を大事にしつつ、新しいことにチャレンジしていくつもりだ。
(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・安楽由紀子)
※AERA 2016年5月23日号