アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はスリーボンドファインケミカルの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■スリーボンドファインケミカル 研究開発本部 省力機器部省力開発課 課長 木部肇(47)
「描こうと思えば、人の顔でもなんだって描けるんですよ」
そう言って、スリーボンドファインケミカル(神奈川県相模原市)の木部肇は、アクリル板に描いた世界地図をかざして見せた。ロボットを使い、工業用のシール剤で描いた。かなりの器用さだ。
スリーボンドグループは、工業用のシール剤・接着剤の大手。米国やアジア、欧州などの24カ国・地域に展開している。同社の製品は一般にはなじみが薄いが、自動車や電気機器、スマートフォンなど、あらゆる機器の製造に欠かせない。
たとえば、自動車エンジンの部品には、オイル漏れを防ぐためにシール剤が使われている。高い燃費効率が求められるなか、車体の軽量化にともなって部品も小さく複雑になっている。だから、使われるシール剤も、それを塗るロボットも長足の進歩を遂げ、精緻な絵を描けるほど器用になったのだ。
木部は、グループの本社がある東京都八王子市で生まれた。実は子どものころから、この会社に「なじみ」があったという。
「いまはもうなくなってしまいましたが、昔、八王子の本社にはプールとサウナがあったんですよ。一般にも開放されていて、友だちと一緒によく行きました」
だから、子どもの頃、スリーボンドは「健康ランド」の会社だとばかり思っていた。そんな昔なじみの会社に、工学院大学を卒業して1990年に入社した。いまはシール剤を精密に塗るロボットの開発を担っている。
木部が勤務する研究棟を訪れると、部下たちがさまざまなロボットを黙々と操作していた。省力開発課で見据えているのは、5年、10年先の世界。工業技術の進化は日進月歩だから、
「どんな要求がきても、それに応えられるようにしておかないと」(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・岡本俊浩)
※AERA 2015年4月13日号