人気映画監督のショートフィルムがネットで無料で見られる。そんな機会を提供するのがネスレシアター。映画人のチャンスの場でもある。
バイクで疾走する男が一瞬、歩道を歩く女性に目を奪われる。視線を前に戻した途端、車にはね上げられた男の脳裏に浮かんだのは…。
「踊る大捜査線」シリーズで知られる人気映画監督、本広克行さんのショートフィルム「Regret」。公開からすでに1年以上がたち、300万人以上が見た。新作映画の上映期間が3週間、4週間も珍しくない昨今、どこで公開されているのか。
答えは「YouTube」。ネスレ日本が運営する無料映画館「ネスレシアター」で上映されている。2013年11月、ネスレ日本の創業100周年をきっかけに、同社が、すでに開設していたエンタメサイト「ネスレアミューズ」と連動させながらYouTubeを活用しようと、ネスレシアターをスタートさせた。同社担当者の出牛誠さんは言う。
「スマートフォンやタブレット、パソコンなどの利用時間がのびる中、動画を通してブランドのコミュニケーションができないかと、メディアとしてのインターネットに注目しました。プロの映画監督が制作する質の高い作品をウェブで無料公開し、多くの人に見ていただく。視聴者に映画を楽しんでもらいながら、これまでにない新しいコミュニケーションモデルの構築を目指しています」
スタートには本広さんや、佐々部清さんといった著名な監督が参加。半年で11作品を公開すると、累計で1千万超の視聴があった。
5~10分程度を目安にしたショートフィルムの中でブランドイメージを訴求していく。スタート当初は、冒頭1分でネスレブランドを描くという条件があったが、現在は、「コンセプトシネマ」というスタイルで、冒頭1分の縛りをなくし、作品全体でブランドの世界観や価値を自由に描いてもらう。ショートフィルムの制作費はすべてネスレが持つという。
ネットはすぐに反応がある。ツイッターでつぶやけば視聴数が伸びる。本広さんはつくって初めて、ネットで公開するショートフィルムの面白さを実感できたという。
「ここから監督やスタッフ、役者に新しいスターが出てくる可能性もある。視聴者にすぐに評価されるから、反応を見ながら実験的な取り組みもできる。まるで“砂場”を与えられた気分です」(本広さん)
※AERA 2015年5月18日号より抜粋