東レ「強くて軽い、黒い糸」東レ 複合材料研究所 主任研究員 伊勢昌史(44)撮影/写真部・外山俊樹
東レ
「強くて軽い、黒い糸」

東レ 複合材料研究所 主任研究員 伊勢昌史(44)
撮影/写真部・外山俊樹
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 アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。

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 現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。

 あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。

 今回は東レの「ニッポンの課長」を紹介する。

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■東レ 複合材料研究所 主任研究員 伊勢昌史(44)

 入社した1995年、炭素繊維は社内でもまだ日陰の存在だった。研究は60年頃から始まっていたが、まだ小さな“つぼみ”でしかなかった。翻って現在。東レが世界シェアの5割以上を握る高性能炭素繊維は、ボーイングの新鋭機「787」の構造材に採用されるなど、脚光を浴びている。

 鉄と比べて10倍の強度なのに、重さは4分の1。強くて軽く、耐久性にも優れる。ならば、誰もがこう考えるだろう。世の中の鉄製品を炭素繊維にすればいい──。自動車はもっと丈夫になるし、燃費も良くなる。実際、787の燃費は炭素繊維を使うことで2割向上した。

 しかし、話はそう単純ではない。

 一般的な国産中型車を炭素繊維でつくった場合、価格は1千万円を超える。コストの壁は、高い。質を向上させながら、どう普及させるか。複合材料研究所の主任研究員、伊勢昌史の仕事は、そんな素材を身近にさせるためにある。

「炭素繊維は、アクリル溶液を細い糸に加工することから始まります。さらに炉で焼き、樹脂とともに成形していきます。鉄鋼などと比べ、工程が長い」

 コストを下げるには、質を落とさずに工程を見直す必要があるのだが、これがカンタンではない。なぜなら、炭素繊維の分子構造は複雑で不規則。伊勢は言う。

「入社後、炭素繊維の世界をつかめるようになるまで、3年かかりました」

 いまの役職になってからは、部下から上がってくるデータを読み解き、普及に向けて方策を練るのが、仕事の中心だ。その日々の仕事が実を結ぶ日は、はるか遠い。

「787用に製品をつくったときも、開発から初飛行まで10年余りかかりましたから」

 仕事場にあるのは、そんな長い長い、道のりなのだ。(文中敬称略)

※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです

(編集部・岡本俊浩)

AERA 2014年10月27日号