国内で製造された冷凍食品に農薬が入っていた。人為的に混入された疑いが濃厚だ。だが、一企業の問題として片付けるべきではない。
一様に口が重い。製造する冷凍食品から農薬マラチオンが検出された、アクリフーズ群馬工場(群馬県大泉町)。今月8、9日、駐車場から工場へと向かう従業員たち30人ほどに声をかけたが、無言で歩を速める人ばかり。製造ライン担当という男性2人から、「世間を騒がせてしまい残念」といった思いを聞き出すのがやっとだった。
疑いの目が向けられているのだから、当然かもしれない。製造工程でマラチオンは使わない▽汚染濃度は同じ袋に入った製品でもまちまち▽袋に穴や破れはない▽部外者が工場に侵入した形跡も見当たらない──ことなどから、工場関係者が、製品を加工してから包装し終えるまでの間に、故意に農薬を混入したとの見方が有力なのだ。
県警は業務妨害容疑などでの立件を視野に捜査を進めている。従業員たちに任意で事情を聴き、工場内のカメラの映像を分析しているという。
「業務妨害というレベルではない。農薬混入が人為的なものであれば、それは『テロ行為』と考えるべきです。真の被害者は企業ではなく消費者なのです」
有路(ありじ)昌彦・近畿大学准教授(食料経済学)はそう話す。
同工場製の冷凍食品を食べ、下痢や嘔吐などの体調不良を訴えた人は、全国で1千人を超えた。因果関係は必ずしも明確ではないが、入院した人もいる。動機はどうあれ、不特定多数の人々に被害や不安をもたらしたことを重視すべきという考えだ。
「個別の企業ではなく社会として、テロと戦う姿勢を示すことが大事です。米国のバイオテロ法のように、この種の犯罪に厳しく対処する法律を整えるとともに、食品製造者側に管理体制の強化を促すことが必要です」
※AERA 2014年1月20日号より抜粋