最近、企業と大学とが手を取ることで新たな商品を生み出す動きが起こっている。学生のリアルな声に応えた商品は、ヒットにつながることがあるのだ。
「歩いてもマメができない靴!」「走ってもコケない、太いヒールが好き」
女子学生の「パンプス」談議に花が咲く。男子禁制のガールズトーク。就職活動に使う理想のパンプス論を展開していた時、ある女子学生がつぶやいた。
「ねえ…私の足、臭いかも。みんなはどう?」
昨年、上智大学経済学部の新井ゼミは、就職活動用パンプスのリサーチを行った。大手通販会社の千趣会から「就活用パンプス」のニーズ調査を依頼されたのだ。企業は現場の声を聞きたいが、調査では本音が見えない。ゼミを率いる新井範子教授は、「学生が社会を学ぶきっかけになれば」と、学生中心のリサーチチームを作った。
張り切ったゼミ生たちは、最初は「大学生らしさ」を前面に出した、突拍子もないアイデアを考えた。おまじない付きのパンプス、ソールに色がついたオシャレなパンプス…でも、リサーチでこんな声を拾った。
「下手に目立ちたくない。面接会場に向かうとき、自分のヒールが鳴るだけでも恥ずかしい」
日本の就活生の本音だった。そこで、個性的なデザインではなく、機能性を重視することに方針を切り替えた。とにかく歩きまわる就活生だが、多くは「スーツに付属で3千円」のパンプスを購入し、靴ズレを起こしていたのだ。結果、開催したガールズトークで、ゼミ生は「足が臭い」発言に行き着く。「靴に10円玉を入れると、臭いが消える」という都市伝説まであるほど、就活生は臭いに悩んでいた。千趣会の坂本典子さんは言う。
「企業の人間が入らない、学生同士の場が、本音を引き出した」
本音は、プロの手で商品になった。大学生は「臭いをとるシューキーパーをつけて」とオーダーしたが、千趣会は通気性のよい合成皮革を使ってムレない工夫をした。「“肉球”の部分が痛いんですけど…」という素人まるだしの意見にも、「衝撃を吸収する中敷きを入れておきましょう」とクリア。学生の切実な声にこたえた画期的な靴が出来上がった。その名も「就活パンプス」。2012年11月の発売から11カ月で4千足を売り上げるヒット作になった。
※AERA 2013年10月28日号