「男はつらいよ」第49作の主題歌を歌い、自他ともに認める大の寅さんファンでもある八代亜紀さん。朝日新聞の小泉信一編集委員が、主題歌レコーディングの秘話、寅さんの魅力、八代家と「くるまや」の不思議なつながりなどを聞いた。
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小泉信一:「男はつらいよ」は昨年、公開50年。八代さんのデビューが1971年で、もうすぐ50年。同じような時代を生きてきたのですね。この50年は、どうでしたか。
八代亜紀:デビュー当時はキャンペーン、キャンペーンで全国を回っていました。
小泉:旅から旅ですね。
八代:寅さんじゃないけど、トランクにレコード、譜面、衣装を詰めて、キャバレーに行って歌ったり、レコード店で歌ったり。それでレコード買ってくれた人と握手して、重いトランク持つわ、何人もの人と握手するわで、手の皮が何回も剥けてました。
小泉:へぇー。夜行列車で旅していたら寅さんみたいな人に出会うこともあったんじゃないですか。
八代:そうですね。でも女の人。ダンサーだと言ってました。キャバレーを回っている。それで、汽車の中で着替えて、同じ駅で降りてタクシーでお店に向かった。なんだか、寂しそうでした。
小泉:寅さんの映画にもリリーという旅回りの女性の歌手が出てきましたね。
八代:私の旅にもリリーがいたのね。
小泉:あのリリーは実際にいた人物なんですよ。釧路のキャバレーだったかな、そんな名前の人が本日出演する、と貼り紙があった。それを山田洋次監督が、こういう仕事をする人がいるのかと思い、浅丘ルリ子さんに演じてもらったんです。それで浅丘さんもこの役が気に入ったそうです。
八代:旅回りの歌手だと私と一緒じゃない。
小泉:八代さんにもキャバレー回りの時代があったんですね。
八代:じゃあ、私はリリーみたいなもんですね。地方回りは2年間やりました。レコードを売るために。それまでは銀座のクラブで超モテモテだったのにね。
小泉:銀座から「ドサ回り」。
八代:そうですね。全国いろんなところを回りましたよ。