小泉:寅さんファンの八代さんは、どんなところに魅力を感じますか。

八代:寅さんみたいな人、近くにいそうですよね。家族にいたらいつもハラハラしているんです。言ってはいけないことを言って。でもそれを注意するとヘソを曲げて出ていってしまう。

小泉:でも、そういう人がいる家は結構ありましたよね。

八代:昔は大家族だったから、いろんな人がいましたよね。家族だからみんな変な気を使わない。うちにも昔、酔っ払ってクダを巻くおじさんがいました。「おじさん、はいはい」って、うちの母は仕方なく相手していましたけど。父は飲めないのですが、友だちとか、親戚とかいっぱい遊びに来て、初めは「おやっさん、いただきます」と静かなんですが、酔っ払ってくると、ウエーとなってきて、酒癖が悪くなる。そうすると、父が「いい加減にしろ! クダ巻くんなら帰れ!」と。それで喧嘩になるんです。それに知らないおじさんもいつのまにか交じってうちで飲んでいましたよ。

小泉:映画では時々、タコ社長みたいなのが来て、余計なことを言う。タコ社長は親戚でも何でもない、たまたま隣に住んでいる人なのに。

八代:「男はつらいよ」のくるまやでのシーンは私の日常と同じでした。

小泉:山田監督の考えるテーマは「家族」なんです。

八代:知らない人も家族になれるっていいですね。

小泉:お父さんは寅さんみたいな人だったんですよね。

八代:見かけは違いますけど、本当に熱い人でした。姿は高倉健さんみたいで、健さんと寅さんを足した感じです。困っている人がいて、家に連れてきたこともありました。

小泉:「男はつらいよ」にも酒場で飲んでいてお金がない人を助けたら、実はその人は日本画の大家だったという話が。

八代:父が連れてきたのはホームレスの人だった。父が家に連れてきて、母はお風呂を沸かしたり、食事を作ったりしていました。1カ月くらいいたかな。

小泉:1カ月も。それでどうしたんですか。

八代:ある日、プイといなくなったんです。父は「あの人、自分が住みやすいところに帰ったよ」って。

小泉:少女・八代亜紀にとって、その出来事はいい思い出として残っているんですね。寅さんが今の時代にいたらどうでしょうね。

八代:パワハラ、セクハラ、モラハラで訴えられるでしょうね。それで「時代はつらいよ」って嘆くかもしれません。でも、今の時代こそこういう人がいればいいなあと思います。

小泉:50年目の50作「お帰り 寅さん」はこんな時代が求めた作品かもしれないですね。

週刊朝日  2020年2月14日号