ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
この記事の写真をすべて見る
国連本部で演説する小泉進次郎 (c)朝日新聞社
国連本部で演説する小泉進次郎 (c)朝日新聞社

 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「セクシー」を取り上げる。

*  *  *

 私は少しだけ英語を話せますが、日本にいる時、特にテレビやラジオで仕事をする時には「英語NG」を自分の中で取り決めています。というのも、英語にも「男喋り」「女喋り」「オカマ喋り」的なニュアンスが多分にあり、私の英語はどういうわけか必要以上に「野郎っぽい」からです。日本語でもベタなオネエ言葉を話すのは苦手ですが、こと英語となると「ミッツ・マングローブ」のキャラの整合性がぐちゃぐちゃになる。なので「ミッツ・マングローブは英語を話せない」設定にしています。

 日本語と英語では、挨拶はもちろん相槌や合いの手といった「ノリやリズム」が全然違います。ひとたび英語脳に切り替わってしまえば、誰かがくしゃみをしても「Bless you!(お大事に!)」と間髪入れずに言えますが、普段(日本語脳)の私にはそんなキザで社交的なメンタリティなど1ミリもありません。歳を取れば取るほど、己の性格や精神性は強固になるもので、私の人間性はやはり日本語を軸に形成されており、英語を操る自分を俯瞰すると、何だか恥ずかしい気持ちになります。それでもこの先、英語で芸能仕事をする機会がないとも限らないので、「ミッツ・マングローブのキャラ」に見合った英語を確立しておかなくてはと思いながら、今日に至っている次第です。

 そんなようなことを先日の小泉進次郎氏の外交デビューを観ながら感じた今週。さすが進次郎さん、英語を話すトーンやキャラも寸分違わず「小泉進次郎」のままでした。そして物議を醸した「Sexy問題」。あの場合の「Sexy」は、「ホットに」とか「熱く(議論しましょう)」みたいなニュアンスであり、さほど問題はなかったものの、あれを英語で言えてしまうメンタリティこそが、まさに私が英語に対して抱く恥ずかしさです。

 それはそうと、日本人にとっての「セクシー」の語感と本場のそれとの間に、とてつもない隔たりと偏りがあったという事実を、日本中が知ることができたのはよかったと思います。「環境問題に対してセクシーなんて不真面目だ!」とお怒りの方もいたようですが、確かに日本人が「セクシー」で連想するものと言ったら「セクシーダイナマイト」「セクシー女優」「Sexy Zone」のどれかと相場が決まっていますし、ましてや突然「セクシーな環境保護」と言われても、せいぜい「ダダーン! ボヨヨンボヨヨン」のCM(レジー・ベネット)を思い出すのが関の山です。

 しかし大事な人を忘れていませんか? 日本におけるセクシーの大権威。そう、三原順子(現・三原じゅん子)さんです。♪SexyNight/気まぐれな/恋もたまにはいいじゃない♪ 改めて聴いてみてください。すでに40年近くも前に三原の姐さんは「Sexy」の広義を歌の中で示していらっしゃる。ちなみに進次郎氏が初外交へ向けて日本を発った9月21日は、奇しくも39年前に三原の姐さんが『セクシー・ナイト』をリリースした日です。なんという因果。ひょっとすると、入閣が叶わなかった三原の姐さんから「アメリカ行ったらセクシーぶちかましてやんな!」的な進言があったのかもしれません。恐るべし三原セクシーサブリミナル(39年越し)。

 ついでに進次郎さん、奥様が世界中に植え付けた「おもてなし」の間違った印象も早急に解くべきです。

週刊朝日  2019年10月11日号

【週刊朝日編集部からのお知らせ】
いつも『アイドルを性(さが)せ!』をご愛読くださり、ありがとうございます。この連載は2016年5月から週刊朝日で始まりましたが、このたび書籍化して、単行本『熱視線』(本体価格1400円)として発売されました。連載の内容を大幅に加筆修正し、ミッツさんご自身が描いているアイドルの似顔絵(AERA dotでは未掲載)も収載しています。装丁にもこだわりました。毒と愛を込めて作った一冊です。ぜひ、紙の本でじっくり味わってお楽しみください!