すると竹下首相は「だからいいのだ。だから日本は平和なのだ」と答えた。そこで「それはどういうことですか」と問うと、「軍隊というのは戦えると戦ってしまう。だから危ないのだ」と答えた。そして、竹下首相は次のように語った。
太平洋戦争に突入するとき、米国と戦って勝てると思っていた日本人は、政府にも軍部にも一人もいなかった。そこで、昭和天皇が陸軍の参謀総長と海軍の軍令部総長に「こんな戦争をしてもよいのか」と問われた。すると、海軍の軍令部総長が、時間がたてば、日本は石油などの資源が枯渇するので戦えなくなる、今ならば戦える、戦うならば早いほうがよい、と答えて、勝てる展望のない戦争に突入してしまった。
竹下首相など、そのことを知っている政治家は、自衛隊が戦える軍隊になるのは反対だった。田中角栄も宮沢喜一も、おそらく小泉純一郎も同じ考え方をしていたはずである。
田中角栄が、私に何度も言ったことがある。
「あの戦争を知っている人間たちが政治家でいる間は、日本は戦争をしないよ」
軍隊とは、戦えれば、負ける戦争でもやってしまう。そして、戦争を知っている政治家がほとんどいなくなり、自衛のためならば戦うのが当然だという風潮が強くなりつつある。
私は、戦争を知っている最後の世代である。
※週刊朝日 2019年1月18日号