ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。インターネットで使われる「lolcat」という言葉について解説する。
【写真】支持者が作成するミームをたびたびリツイートしているトランプ大統領のツイッター
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「lolcat」という言葉をご存じだろうか。lolは「lots of laugh」を意味するインターネットのスラング。日本で言えば文章の語尾につける「(笑)」や「w」に相当する。
catはもちろん猫で、ユーモラスな猫の写真に、“猫語”(ブロークン・イングリッシュ)で面白おかしい台詞やキャプションをつけた画像が「lolcat」ということになる。2005年ごろの画像掲示板「4chan」が起源と言われ、06年ごろからlolcatと呼ばれはじめた。
コンピューターにいたずらする猫の写真に「おまえの仕事手伝ってやるよ」という台詞をのせたり、不機嫌そうに見える猫に哲学的なことを言わせてみたり。他愛のない画像ではあるのだが、物言わぬ猫からの思いがけないメッセージがうけて、07年ごろから欧米圏を中心に流行した。ちょっとした画像編集ができれば誰にでも作れることから爆発的に広まり、笑いを誘うネタとしてネット上を彩った。
興味深いのは、誰かが「lolcatとはこういうものだ」というルールを決めたわけではないところ。ネット上にある誰かが作ったlolcatを見て、猫の写真に台詞を付け加えるというフォーマットを模倣し、その連鎖によって次第に形作られていった。
模倣やパロディーを通じて伝播するアイデアや行動、スタイルや習慣などの文化的情報は、英語圏では「ミーム(meme)」と呼ばれる。lolcatはネットにおけるミームの代表例となった。
また、lolcatが広めた写真とキャプションの組み合わせ(イメージ・マクロ)についてもミームと呼ばれるようにもなり、次第にソーシャルメディアでもおなじみの存在になっていった。
最初は他愛もないネット上のジョークコミュニケーションが多かったミームだが、その拡散力が見込まれ、10年を過ぎたあたりから政治的な目的でも使われるようになる。写真と短い文章の組み合わせという単純さが、論点の単純化やすり替え、誇張、さらには人格攻撃に好都合だったためだ。