マリー・アントワネット風ドレスやマオカラー(毛沢東)など、昔から政治的歴史はファッションに大きな影響を与えてきました。さらにはミリタリールックや迷彩柄、囚人服といった比較的ネガティブな要素も、ファッションスタイルとして定番化しています。しかし、ピンポイントな史実や人物をファッションに落とし込むのは容易ではありません。何よりも歴史感情に伴う『時間の経過』が必要です。完全な過去になりきれていない歴史を纏うことは、お洒落とは違う『メッセージ』を発信してしまう。たとえそれが何の政治的意味合いもなくあしらわれていたとしても、です。特に原爆、真珠湾、ナチスといった第2次世界大戦にまつわるあれこれは、まだファッションの材料にするには早過ぎる。

 何年か前の8月15日。とある生放送の番組で、CM中に観覧のお客さんたちと「今日は終戦記念日ですが、ちなみに皆さんどちらからいらっしゃったんですか」的な会話をしていた時、たまたま「広島から!」と手を挙げた若い女性が、ガッツリ星条旗柄のトレーナーを着ていたことがありました。もちろん彼女に何の意図もないことは明白でした。それでも、8月15日に広島から星条旗柄の服を着て東京に来ることは、図らずも妙なメッセージ性を持ってしまうのがファッションの怖いところです。

 話は戻って、ファッションモチーフとして『原爆』はダメでしょう。当の韓国アイドルグループを責めるのではなく、『原爆』がまだ昔のことではない時代を生きている日本人として、そこは絶対に譲れないスタンスを貫くべきですし、第2次大戦に関わった国の人たちも、互いの正義がどうであれ、ちゃんと分別を持たないと。洒落にならないものは『お洒落』ではないということです。

週刊朝日  2018年11月30日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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