今回相談員を務めた一般社団法人社会支援ネット早稲田すぱいくの、刑事司法ソーシャルワーカー(障がいや高齢などにより福祉的支援を要すると思われる被疑者、被告人への支援を行う)の資格を持つ社会福祉士、小林良子氏が語る。

「相談者の話をうかがい、万引きの原因として認知症の疑いがあれば東京都によって指定された認知症疾患医療センター、本人に介護の必要性があると判断すれば地域包括支援センター、社会に対する不満や不全感から万引きをしてしまうようであれば鑑別所が実施しているカウンセリングを紹介するというように、適切な支援機関や団体の紹介を行いました」

 今回の電話相談は期間限定だったが、今後、東京都が万引きの相談窓口を常時設けるかどうかは検討中だ。

 ところで、「高齢者の万引きが深刻」というとき、具体的に何が深刻なのだろうか。

 総務省統計局の推計では、今年7月1日の時点で65歳以上の人口は3547万人(概算値)。総人口に占める割合は28%で、高齢者は増加の一途をたどっている。

 こうした中、全国で万引きによって検挙された高齢者の数は11年に初めて少年(14~19歳)の数を上回った。

 以来、警察庁の統計では万引きの検挙人員全体に占める高齢者の割合は高く、しかも年々増えている。

 16年に全国の万引きで検挙された6万9879人のうち、4割近い2万6936人が高齢者だった。

 高齢者の万引きは比較的捕捉しやすく、地域によって警察の対応も異なる。また店側が被害届を出さず厳重注意や弁償で内々に処理してしまうなどの理由から、統計上の数値が必ずしも正確な実態を反映しているわけではない。

 とはいえ、万引き犯に占める高齢者の割合が増えつつあるのは、万引きの全体数が09年以来、毎年減少する中で、検挙される高齢者数が毎年2万人台後半と横ばいで推移しているためだ。

 このように高齢者の万引きの深刻化は単なる件数増減の問題ではない。

 むしろ、先の様々な事例のように、万引きを犯してしまう高齢者がそれぞれ抱える悩みや不安、あるいは心の闇の深さだ。これは何も、万引きに限ったことではない。

 群馬県前橋市のスーパーで7月10日、75歳の無職男性が従業員2人を刃物で刺すという凄惨な事件が起こった。

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