ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は「アイドル」を取り上げる。
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岸谷香さん、AKB、酒井法子さん、ドリカム、そしてクリスマスイブの明菜ちゃんと、今月も足繁くいろいろなライブを観て勉強しながら、自分共のステージにも精を出す師走です。やはりアイドルは究極の生き物であり生(なま)モノ。その刹那的過ぎる『生(なま)』感を刻んで灼きつけたいから、人はアイドルに熱中するのでしょう。すべては今この一瞬のために。ともすればアイドルに『永遠性』は禁物なのかもしれません。
初めて全編生演奏・生歌に挑戦したというAKBは、まさに子供の頃テレビの歌番組を観ながら抱いていた緊張感と焦燥感に溢れていましたし、山あり谷ありを経て、それでもマンモス煌びやかに歌い踊るのりピーの姿は、アイドル特有の疾走感と虚構(様式美)が満載で、夢がありました。夢なんて得てして不健全で不純なものだと思います。だからこそ「アイドルはウンコをしない」なんて生々しい夢を見せることができる。
先日、韓国の若いアイドル歌手(SHINeeのジョンヒョンさん)が自殺しました。こんなことを言うのは酷で非常識かもしれませんが、仮にアイドルが「現実世界に夢を与える仕事」なのだとするのなら、私は以前からアイドルが絶対にやってはいけないのは『死ぬ』ことだと思っています。死は、あらゆる現実味に違和感を与えると同時に、夢見る生々しさを潰(つい)えさせます。本当の意味で『ウンコをしない人』になってしまっては、それはもう『夢』ではなくなるのです。
ひとりの人間としての悩みや病みはあれども、若くして自ら命を絶つなどという『生命力の脆さ』だけは見せてはいけない。血も涙もないことを言えば、それがアイドルとして選ばれた者の責任だと思います。それぐらい世間、特に子供や若い世代に与える影響は大きい。不倫や薬物なんかより何百倍も、です。