ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。フェイクニュースへの法規制がアジア圏に広がりをみせていることを指摘する。
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欧州を中心にフェイクニュースやヘイトスピーチへの対策が検討されているが、ここに来て事態は動き始めている。
ドイツはヘイトスピーチやフェイクニュースの削除を怠ったプラットフォーム事業者に対し、最大5千万ユーロ(約60億円)に上る罰金を科す法案を3月に提出。現在国会で審議されている。6月9日号の本連載で、英国のメイ首相がドイツと同様の法案を制定しようとしていることを紹介した。
英国では総選挙直前の6月3日、ロンドン中心部のロンドン橋で、テロ事件が発生した。これを受けメイ首相はテロ対策も含めたネット規制に言及している。
「過激思想がはびこる安全地帯を許してはならない。しかし、インターネットとネットを使ったサービスを展開する大手企業は、まさにそれを提供している。テロ防止のためには、ネットに対する規制を強化しなければならない」
かなり踏み込んだ発言だが、現時点では具体的にどのようなやり方でグーグルやフェイスブック、ツイッターなどのプラットフォーム事業者に規制を行うのか明らかになっておらず、先行きは不透明だ。
一方で、フェイクニュースへの法規制の波は、アジアまで押し寄せつつあるようだ。
シンガポール政府が行った世論調査では、90%以上の国民がフェイクニュースの削除や修正を可能にする立法に賛成している。調査ではおよそ75%が、おもにフェイスブックやメッセンジャーアプリのWhatsAppで、フェイクニュースに遭遇したとも回答。シンガポールのネットにフェイクニュースが蔓延(まんえん)し、国民的問題になっていることがうかがえる。
日本ではまだ法規制の動きは見られないが、それに代わる民間の取り組みとして6月21日に、さまざまなニュースのファクトチェックを推進する団体「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)が設立された。
この団体はジャーナリストやメディア研究者、ニュースアプリ関係者ら、業界を横断するメンバーで構成されている。ネット上で注目される記事のファクトチェックを支援し、その情報をデータベース化して誰でもオープンに利用できるようにすることで、フェイクニュースの拡散を防ごうとしている。フェイクニュース対策の具体的な取り組みとしては国内初だ。今後の発展に期待したい。
厳しい法規制を行うべきか。それとも事業者を巻き込んだ民間の取り組みにとどめるべきか。ネット上のフェイクニュースを巡る世界的な戦いはまだ始まったばかりだ。
※週刊朝日 2017年7月14日号