ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「王子と女王」を取り上げる。
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先頃、『秋篠宮眞子内親王ご婚約内定へ』という喜ばしいニュースがございました。テレビも久しぶりの『皇室シフト』全開で、長年の皇室愛好女装としましても非常に心が躍った次第です。うら若き眞子さまの御心を掴んだのは、同じ大学出身の小室圭さん。神奈川県藤沢市で開催された『湘南江の島・海の王子』出身とのことで、近年の王子ブームも手伝い盛り上がっているご様子。元々は『麗姿江の島青春祭・ミス弁天』というミスコンから始まり、『ミス藤沢』→『ミス貝姫』と名前を変え、昭和30年に『海の女王』に定着。そして平成8年からは男子部門である『海の王子』が新設され、現在に至るそうです。このように歴史ある『ミスコン』における『男子部門』の存在は、『女性も男性を選ぶ』という新たな価値観とともに、もはや男が女を『見初める』時代ではなくなってきている表れなのでしょう。小室さんも『男が選ばれる時代に選ばれるべくして選ばれた男性』と言えるのかもしれません。
余談ではありますが、この『海の王子』関連でひとつ気になったのが、『海の女王』なるネーミングです。本来『王子』と対義するのは『姫』や『妃』といった、いわゆる『プリンセス』を意味する呼称が一般的であり、『女王』といったら『王子』の親世代。若い男子が『王子』に選出される横で「今年の海の女王は……!」ときたら、否が応でもハイレグ姿で高らかに戴冠している『かたせ梨乃』的な女傑の姿を想像してしまいます。しかしながらというか勿論、件の『海の女王』も(年齢の上限はないとはいえ)若い未婚女性向けのものです。実はこの江の島のコンテスト、はからずも昨今の『実質的女性上位』の風潮がかなり色濃く出ており、そのような点においても小室さんが如何に『お相手』としてふさわしいかが分かります。
では、私たちが日常で多用している『女王』って何なのか。ブルースの女王・淡谷のり子然り、銀盤の女王・伊藤みどり然り。ちなみにSMの『女王様』は英語では『ミストレス』であり、『Please hit me, my queen!(女王様、僕を叩いてください!)』とお願いしても通じません。かと思えば、本場イギリスではエリザベス女王(The Queen)を差し置いて、『Queen』という男性バンドがいる上、オカマや女装の俗称でもあります。どうやら『女王』や『クイーン』には、『王様』とは違いどこか常識や健全さからはかけ離れた存在、女の戦いを極めた逞しいイメージがある。健全の象徴であるべき『海の女王』のちぐはぐさはそこだったのか。やはり『女王=かたせ梨乃』で正解なんだ。あと『レシピの女王』(『ヒルナンデス!』)もお忘れなく。
※週刊朝日 2017年6月9日号
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