ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「『ちょうど良さ』と『都合良さ』」を取り上げる。

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「帯に短し襷に長し」なんて言葉があるように、古来、世の中は『ちょうど良い』を追い求めてきました。『ちょうど良い』とは、言い換えれば『都合の良い』ということです。カレーの中辛、準急列車、二世帯住宅、七分袖、懐かしいところでは『70分カセットテープ』など。ホテルのランチバイキング的な『二度三度おいしい』お得感への欲求や、ワゴン型軽自動車のような『ただのわがまま』まで、この世の歴史は『ちょうど良さ』の歴史と言っても過言ではありません。

 人は過激で刺激的なものを求める一方で、周囲の目や足並みを思いのほか重んじます。特筆すべき嗜好や体験は、かじる程度にしておかないと、周り近所から変人扱いされる危険性がありますし、毎日辛いものやケバいものに囲まれた環境では胸焼けしてしまう。『間を取る』という行為は、資本主義社会において、『他を出し抜く』よりも大事であり、それよりもっと大事なのは、『間を取りつつ、他より得をする』こと。いわゆる『ハイブリッド精神』です。アラカルトな生き方とでも言いましょうか? オカマを羨ましがる数少ない事柄の中でも、『男と女の気持ち、男と女の快楽を両方知れる』がぶっちぎりなのが良い例です。

 数多のハーフタレントが芸能界で重宝される理由も、そこにあるような気がします。要は、50/50の『ちょうど良さ』が好都合だからです。特に欧米コンプレックスの強い日本では、金髪や青い目に惹かれるものの、直球勝負は気が引ける。故のウエンツ瑛士なのでしょう。『異国情緒』というのは、あくまでドメスティックな環境下が大前提ですから。

 
 オネエやオカマも、最初の内は『刺激的なハイブリッド』として扱われていましたが、やはり時間が経つと“もたれ”てくるのは当然です。ハイブリッドと呼ぶには甚だ偏り過ぎています。前にも書きましたが、りゅうちぇる人気の秘訣は、最も重要な部分とも言える『オス・メス』の基本概念(男は女に発情する)が、一般のそれと合致しているからだと思います。たとえ男が化粧をしようと女言葉を使おうと内股で歩こうと、最終的に『女好き』というところで合点がいくため、理解や解消ができないモヤモヤや戸惑いを抱かずに済む。程よい刺激とアブノーマルを求める世の中的には、まさに『ちょうど良い』存在なのでしょう。セクシャリティに対する基礎概念の壁は、想像以上に高く厚いものです。と同時に、己の『ちょうど悪さ』を改めて痛感することしきり。関係ないかもしれませんが、カズレーザーの『バイセクシャル』スタンスというのは、もしかすると世間が求める『ちょうど良さ』の着地点なのかなと思ったり。未曾有のオネエブームを経て、世間全体が無意識の内、バイセクシャルにバランスを見出しているのだとしたら、なかなかのものです。何がなかなかのものか分かりませんが、『間を取ってバイセクシャル』って、ちっとも常識的でない上に、かなりの変態性を感じます。無論カズレーザーはそんな理由で売れているわけではありませんが。

 そんな『ちょうど良さ』と『都合良さ』の究極に位置するのが、善良な不良『氣志團』先輩です。仮に彼らがバイだったら……と想像していたら思い出した『矢島美容室』。確かに絶妙なちょうど良さとハイブリッド感!

週刊朝日 2017年4月21日号