ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏が、フェイスブックの歴史的な写真の削除をめぐる騒動から、同社のあり方を問い直す。
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「戦争の悲劇を伝える1枚の写真」の掲載を認めるか否かでフェイスブック(FB)が揺れている。
発端は8月19日、ノルウェーの作家でジャーナリストのトム・エーゲランが「戦争の歴史を変えた写真」として7枚の写真を投稿したことだった。そのうちの1枚に裸の少女が写っており、これがFBの運営に問題視され、「コミュニティ規定に反する」として写真が削除された。
問題の写真はAP通信の報道カメラマン、ニック・ウトによって撮影された「戦争の恐怖(Fear Of War)」。ベトナム戦争の最中、南ベトナム軍が投下するナパーム弾によって、やけどを負った子どもたちが逃げてくる場面をとらえた、かの歴史的な写真だ。
一体、なぜこの有名な写真が削除されたのか。
FBの「コミュニティ規定」では、ヌード写真が禁止されている。しかし、この少女はナパーム弾に焼かれた衣服を脱ぎ捨てて身体中にやけどを負いながら逃げてきているわけで、単なるヌードとは意味が違う。
これを受け、ノルウェー最大手の新聞紙アフテンポステンは、写真を載せた上でFBの一連の対応を疑問視する記事をFB上に投稿。これに対してもFBはメールで「削除するか、ボカシをいれるか」を迫り、その後削除してしまった。「この写真は歴史的な意義がある子どもの裸で、ほかの写真はそうではないという区別はできない」という理由だった。
このことが騒動にさらなる火を付ける。
だが、FBはそうした首相の投稿すら削除。そこかしこに抗議と削除が入り乱れる泥沼と化した。
全世界的に高まる批判の声に抗しきれなくなったのか、9月9日、FBは一連の削除を撤回、投稿を復旧すると発表した。10月21日には「報道価値がある、公共の利益にとって重要なものであれば、規定に違反していたとしても公開を許可する」というプレスリリースを発表し、一件落着となった。
ポステン紙のハンセン編集長は、FBを「世界で最も権力のある編集者が、その権力を濫用(らんよう)している」と批判した。その一方で、FBのマーク・ザッカーバーグCEOは「我々はテクノロジー企業(情報発信プラットフォーム)であって、(新聞社や放送局のような)メディア企業ではない」という姿勢を崩さない。
コンテンツを作る会社ではないという理解なのだろうが、「何が投稿できて、何が投稿できないのか」ということを決定しているのはFBである。ネット時代の公共性を考える意味で、「超巨大な“編集者”」としてのFBに注目し、検証しなければならない。
※週刊朝日 2016月11月18日号