陛下の並々ならぬ意志が…(※イメージ)
陛下の並々ならぬ意志が…(※イメージ)

 戦後70年の節目を過ぎてもなお、両陛下の慰霊の旅は続く。それは負の遺産を残した日本の天皇、皇后として祈りを捧げ、惨禍の記憶の風化に抗すること。元朝日新聞編集委員・岩井克己が寄稿した。

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「1月に行くしかないでしょう」

 宮内庁関係者によると、今年1月26日から30日までのフィリピン訪問は、昨秋の天皇陛下のこのひと言で動き出したという。

 フィリピンとは国交回復60周年だが、東南アジア諸国連合(ASEAN)原加盟国5カ国のなかで唯一、天皇として訪問していなかった。アキノ家は、3世代にわたり皇室と浅からぬ縁がある。ベニグノ・アキノ(3世)現大統領と母のコラソン・アキノ大統領。そして祖父のベニグノ・アキノ・シニア国会議長は日本軍政に協力したとして戦後は戦犯裁判にかけられる苦労をなめた。強く招請してくれた現大統領の任期(6月まで)中に訪問したい。

 ただ、3月以降は5月の大統領選挙に向けてフィリピン国内は騒がしくなってくる。一連の新年行事の続く1月は高齢の両陛下には過酷な日程になりかねない。残るは2月という訪問の打診に、現地の日本大使館から「避けて欲しい」との声が上がった。2月はマニラ市街戦の月だからだ。

 71年前の1945年2月、米軍の猛烈な反攻と抗日ゲリラに追い詰められた日本軍はフィリピン各地で非戦闘員の虐殺やレイプ事件を起こした。とりわけマニラ市街戦では米軍が無差別砲爆撃に踏み切ったこともあって、女性・子どもを含む10万人の非戦闘員が犠牲となった。マニラ以外でも2月はフィリピン全土で戦争の犠牲者を悼むミサなど追悼行事が続く。

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