五輪に向け、再び町の形が変わろうとしている東京。この大都会の真ん中に、何十年も変わらぬやり方で食品をつくり続けるメーカーがある。
東京23区にある食品メーカーはどこも広くない。たとえば江戸玉川屋の熟成室は、自社ビルの3階にあり、広さは35坪ほど。部屋いっぱいにうどんが干されて揺れている。
「土地が狭いから、ビルにして縦に空間を確保するしかない」と、同店の関根康弘さんは笑う。多くは住宅地にあり、匂いや騒音に気を配りながらの作業を強いられる。だが、近所に住む人との距離が近いからこそ、「お客さんの反応を肌で感じられるのが嬉しいし、励みにもなる」と、誰もが口を揃える。
生産量には限りがあるし、周囲の環境も目まぐるしく変わる。けれど移転してまで事業を広げる気はない。今まで続けてきたやり方を大事にして、人が喜ぶものをつくる。そんな消費者と生産者が近い食品が、東京にもまだ残っているのだ。
同業者は減った。だが今もつくり続けている人々は、和気あいあいとしていて明るい。
※週刊朝日 2015年12月4日号