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週末の夜の銀座、終電間際の時間になると、そそくさと帰る人の波ができる。
アベノミクスで沸いた1年前の銀座は賑わっていた。色とりどりのドレスに身を包んだ女性が客を見送る姿が多く見受けられたし、タクシーをつかまえるのが大変だったのに――。
周りの人の消費につられて自分も消費してしまう。アメリカの経済学者のハーヴェイ・ライベンシュタインは、このような効果を「バンドワゴン効果」と呼んだ。
そう、景気は「気」から。アベノミクスによって景気回復への期待感が高まり消費に積極的な人が出て、それがジワジワと広がりつつあった。それなのに、4月に実施した8%への消費増税が、せっかくの「気」を冷え込ませたのだ。
各種の経済統計の悪化が相次いでいる。
商店主などに景況感の実感を聞く景気ウオッチャー調査では、景気の現状を示す指数が8月は前月比で3.9ポイント減の47.4と、4カ月ぶりに悪化。4~6月期の国内総生産(GDP)の実質成長率も7.1%減(年率)と、リーマンショック後の2009年1~3月期以来の落ち込みとなった。
また、8月の自動車の新車販売台数は前年同月比9.1%減と大幅な落ち込み。7月の家電量販大手4社の売上高は、ヤマダ電機が前年同月比約9%減と4カ月連続のマイナス。他社も2~7%減となった。
これまで「反動減は想定内」と言っていた政府と日本銀行。だが、このような状況を受け、日銀は14年度の経済成長率の見通しを従来の1.0%から引き下げる方向で検討に入った。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁も4日、「消費の戻りがやや遅れている」との見方を示さざるを得なかった。
以前から増税に反対姿勢を取っていた三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員の片岡剛士氏は、
「残念としか言いようがない。金融緩和でよくなったのに回復途上の日本経済にブレーキを踏ませた。予想できたことです」
とため息をつく。
日銀の異次元緩和と米国景気の回復傾向を受け、円安株高が進行。業績改善した大企業は、安倍政権が強く求めたこともあり、賃上げを進めた。非正規社員の社員化も一部で進んだ。デフレ不況からようやく脱却しつつあった。
しかし物価の上昇率に賃金の上昇がまだ追いついていなかったうえ、賃上げの恩恵が中間層より下まで行き渡っていなかった。そんな中で消費税を8%に引き上げたため、多くの人が財布の紐を締めたのだ。
「消費の落ち込みは反動減と言われていますが、増税前の駆け込み分を上回っています。所得が増えなければ、今後の消費も伸びないでしょう」(第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏)
※週刊朝日 2014年9月26日号より抜粋
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