6月27日。沖縄を訪れていた天皇、皇后両陛下は、かねて希望していた「対馬丸記念館」(那覇市)への訪問を果たした。沖縄の学童疎開船が撃沈された対馬丸事件は、今年、70年の節目を迎える。
学童疎開船「対馬丸」は1944(昭和19)年8月22日午後10時12分、米潜水艦ボーフィン号の魚雷攻撃で沈没した。学童の引率者や一般の疎開者を含む1788人が漆黒の海に放り出された。乗船した学童834人のうち、生き延びたのは59人。全体の生存者はわずか1割だった。
6月27日、両陛下は、対馬丸の生存者や遺族ら15人と館内で懇談した。その一人、米国在住のマリア宮城・バートラフさん(83)は、高等女学校2年生のときに対馬丸事件に遭い、一緒に乗った祖母と弟、従姉妹を失った。魚雷攻撃で飛散した船の鉄板が体に刺さり、血まみれで漂流した。4日目に、日本海軍の駆逐艦に救助された。マリアさんは甲板に寝かされたが、兵隊が亡くなった人たちの遺体を海に蹴り落としていた。意識が朦朧とするなかで、必死に「うーん」とうなって、生きていると知らせた。
「おひさしぶりです」。マリアさんは、両陛下とそう言葉を交わした。実はマリアさんは、6年前に皇居で両陛下と面会している。68(昭和43)年、沖縄学研究者の外間守善(ほかましゅぜん)氏に説明を受けて以来、両陛下は、この悲劇に心を寄せてきた。皇居での面会の折、両陛下は、マリアさんの話に熱心に耳を傾けた。当初30分とされた面会時間は1時間半に及んだ。