国の“特定秘密”を漏らした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案を巡る国会審議がとうとう始まった。しかし、施行されれば、国民の「知る権利」が侵され、原発事故リスクなども新法の下、隠蔽される恐れがある。ジャーナリストの横田一氏が調査した。

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 衆院国家安全保障特別委員会で、「(法案が成立すると)報道機関が捜査の対象にならないか」(公明党の大口善徳議員)と問われた森雅子・同法案担当相は、緊張した面持ちでこう答弁した。

「報道機関のオフィスなどにガサ入れ(家宅捜索)が入るということは、ございません。報道・取材の自由は保障されます」(11月8日)

 だが、答弁をうのみにはできない。この法案が指定する特定秘密の範囲、知る権利の保障はあまりにも“グレーゾーン”が多いのだ。

 たとえば、原発については「事故等に関する情報は特定秘密の指定対象にはならない」とする一方、「原発の警備の実施状況は特定秘密になる」という。

 そして、「通常の取材行為は処罰対象となるものではない」という一方、「著しく不当な方法による取材行為は例外」ともいう。ならば、「著しく不当な取材」とは何なのか? 極めて曖昧な点が多いのだ。

 秘密保護法成立で原発関連情報が出にくくなることを懸念するのは、原発訴訟に32年以上取り組んできた海渡雄一弁護士だ。

 実は福島原発事故直後、東京電力が“秘密”を盾に原発情報の提供を拒み、国民の命が危険にさらされたことがあったという。

 福島第一原発が全電源喪失で冷却機能を失った際、東京消防庁による注水によって破局的事故が回避されたが、作業実施までの間、“秘密”を巡り、東電と消防庁に“攻防”があったのだ。

 東京消防庁は作業のため、原発内部の図面を手に入れようとしたが、東電は「テロ対策に関わる最高機密」という理由で提出を渋ったというのだ。海渡弁護士はこう解説する。

「検査にあたる予防部職員の機転で何とか図面が手に入り、消防庁の注水が成功したと報じられています。この職員の行為で、関東地方にも住めなくなる壊滅的事態が避けられたわけですが、秘密保護法が成立していたら秘密漏示罪に問われる可能性が高い。秘密保護法があることで、原発事故時に肝心な情報が出にくくなる恐れがあるのです」

週刊朝日 2013年11月22日号