安倍晋三首相が今国会での成立を目指している「特定秘密保護法案」。施行されれば、国民の「知る権利」が侵される可能性が高い。ジャーナリストの横田一氏がこの問題を取材した。
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沖縄の日米密約や緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)の情報隠しをみてもわかるように、今、日本に必要なのは、情報公開徹底のための新しい情報公開法制定(法改正)だ。
それをせずに秘密保護法を成立させるのは本末転倒としか言いようがない。
日本は情報公開後進国で、環境関連の情報公開を義務付けた「オーフス条約」を批准していない。
この条約は、東電のような私企業の情報であっても、環境関連の情報は出さないといけないという内容で、当然、周辺の居住環境に重大な悪影響を及ぼす原発関連情報は、すべて公開されることになる。
「重要な情報を出さない隠蔽体質の東電に日本国民の命運が委ねられているのはおかしい。東電からも情報が出てくるようになるオーフス条約批准のほうが、秘密保護法よりも国民の命と安全を守るのにプラスになります」(原発訴訟に32年以上取り組んできた海渡雄一弁護士)
89年に日弁連が人権大会を開いた際、米国の社会運動家、ラルフ・ネーダー氏が参加し、「情報公開は民主主義の通貨だ」と演説したという。日本弁護士連合会元会長の宇都宮健児弁護士は振り返る。
「情報公開がないと、民主主義は成立しない。国民は情報がなければ、主権者として何も判断ができないからです。欧州の人権裁判所では、仮に情報を得る過程で違法行為があったとしても、情報開示による民主主義社会維持のために役立つ価値が上回れば、無罪にしている。ところが、国会で審議中の秘密保護法案は民主主義社会に逆行するものです。治安維持法が国民を縛った戦前への逆行を目指しているともとれる。何年か後に振り返ると、秘密保護法で日本が変わってしまったという転換点が今国会になる可能性がある。」
社会に安心より不安の影を落とす法案の本質を十分に見極める必要がある。
※週刊朝日 2013年11月22日号