きらきら輝くオレンジ色の麺。本場イタリアには存在しないナポリタンは、なぜか日本人の舌にしっかりと刷り込まれ、一口食べるだけで私たちの食欲と郷愁を刺激する。
昔はどの家庭でも作っていた。だが、いつしか誰もがスパゲティを「パスタ」と呼び、麺のゆで加減「アルデンテ」にこだわるようになってから、長く世間から忘れられてきた。今再び注目される一因には、男性の支持がある。週5日食べる都会の会社員(48)は、「値段が手頃で、どこで食べてもがっかりさせられないクオリティー。大盛りにできるという男のロマンもある。主食はもちろん、残業前、飲み会の後の締めも、デートの時もナポリタン。バーで食べるときは意外にワインと合う」と、その魅力を分析する。
昔ながらの喫茶店に行列ができ、大盛り無料の専門チェーン店には、空腹のサラリーマンが通う。深夜のバーで女性と「懐かしい味だよね」と語りながら味わうのもいい。
単なるノスタルジーではない。人々は改めて、ナポリタンの奥深い世界に魅了されているのだ。
いくつかナポリタンの名店をご紹介しよう。
「ザ・カフェ」(ホテルニューグランド)
ナポリタンの起源はここにある。2代目総料理長・入江茂忠さんが、スイス人の初代総料理長サリー・ワイルさんのアイデアを発展させて現在のレシピを完成させた。ケチャップの代わりに自家製トマトソースを使い、具材は特製ボンレスハムとマッシュルームのみ。素材の味を最大限に引き出す。ザ・カフェ6代目料理長の長谷信明シェフは、「おいしいと言っていただけるのが何よりのご褒美。伝統の味を崩さず、次世代に引き継いでいきたい」。
「カフェテラス ポンヌフ」
新橋駅前ビル1号館完成当初から、ほぼ変わらず営業を続ける。ランチタイムの行列は日常の光景だ。アルバイトとして入り、現在はオーナーの信夫健二さん(69)は、「その独特の味が病み付きになるんだ」と言う。実はハンバーグが自慢という同店。毎日、ナポリタンは約200食、ハンバーグも約150個を用意する。「昔から、自分が一番大好きな女性に食べてもらうような気持ちで作っています」(信夫さん)。
※週刊朝日 2013年7月26日号