だからこそ安倍政権は「文部科学大臣ができないなら自分でやる」という意気込みで国家戦略特区制度を設け、そこで獣医学部の新設を認めたい国家戦略特別区域諮問会議(特区会議:議長は総理大臣)や内閣府と、新設を認めたくない文部科学省をバチバチに対決させた。

 新設を認めたい側は、もちろん安倍さんの意向を背負っている。他方、新設を認めたくない側は、日本獣医師政治連盟の意向を受けている。

 こういう状況だから、特区会議の議論の中で「首相案件」や、「安倍さんの意向」というような言葉が飛び交っても、何らおかしくはない。既得権を打破する改革は、トップである首相の強烈な意向がなければ実行できないということは、理解しておくべきところだ。そして安倍さんの意向だけが問題視されたが、当然、獣医学部新設に反対する獣医師政治連盟側の意向も特区会議の中で押し出されていたことは認識しておかなければならない。

 改革とは、意向と意向のぶつかり合いだ。そもそも、獣医学部を新設することくらいが、国家戦略の柱の一つになるということがおかしい。この程度の問題で首相がここまで政治的エネルギーを消耗し、国家戦略特区という大げさな仕掛けを使わないといけないというなら、他の大きな改革など実行できるわけがない。

 獣医学部の新設などは、首相や政権の意を受けた文部科学大臣が、スパッと文部科学省告示を変更すれば一日でできることだ。アメリカのトランプ大統領は、次から次へと大統領令にサインをして改革を実行している。もちろんある程度の議論は必要だが、50年以上も獣医学部が新設されず、加計学園は8年にもわたって新設を申請したのに15回も却下されたというのは異常すぎる。業界団体から距離を置いた、強い野党が存在しなければ、日本の大改革は進まない。