また、人類が最初に乳の発酵を発見したのは数千年前。アラビアの商人が、ヤギの胃袋でつくった水筒に家畜の乳を入れて旅をしていたところ、胃袋に残っていた乳酸菌が発酵して、偶然チーズのようなものができたといわれている。
■カビはジメジメした日本が好き
日本では縄文時代からお酒づくりが始まり、奈良時代には日本独自の米麹を使った、現在のお酒づくりが確立された。奈良時代に書かれた『播磨国風土記』には、「神様に蒸したおこわをあげたら、それにカビが生えた。捨てるのがもったいないから、それで酒を造った」という内容がある。平安時代の末期には、世界に先駆けて「種麹屋」という米麹を売る商売まであったというから驚きだ。
日本でカビ(麹菌)を使った発酵食といえば、みそ、しょうゆ、みりん、米酢、日本酒などと、その種類は多い。けれど、中央アジアやヨーロッパでカビを使った食べ物を探しても、青カビチーズくらいしかない。これは、カビが日本や東南アジアのように、湿度が高い温暖湿潤気候では繁殖するけれど、乾燥した地中海性気候では繁殖しにくいからだと考えられる。
その一方、中央アジアやヨーロッパなどでは、ウシやヤギ、ヒツジなどの家畜を管理し、その乳や肉を食料とする文化があるので、チーズやヨーグルト、ハムなどの発酵食の技術が発達してきたんだ。
【メモ】
奈良時代には、カビが生えた米は「カビ立ち」と呼ばれていました。その後、カムタチ→カムチ→カウジ(明治時代)→麹と変化し、今の言葉になったといわれています。
(解説/東京農業大学名誉教授・小泉武夫)
※月刊ジュニアエラ 2017年2月号より
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