神奈川県相模原市の障害者施設で、刃物を持った男が入所者らを襲い、19人が死亡、26人がけがをする事件が7月26日未明に起こった。なぜこのような事件が起きたのか。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された解説を紹介しよう。
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多くの人が亡くなり、傷つき、今も不安で眠れない人がたくさんいることに、まずは想像力を働かせてみよう。そうすれば、いかに理不尽で無残な事件だったかがわかるはずだ。この事件の背景を、社会や国家に焦点をあててみていこう。
今年4月、障害をもつ人への差別を禁止する「障害者差別解消法」がスタートし、日本は障害のあるなしにかかわらず、共に生きる社会を目指すことを法で定めた。一方で、働いて社会に貢献することに人の価値をみる経済中心主義も広まっている。その流れの中で、生産労働には不向きの障害をもった人々が、就職や昇進、あるいは結婚や居住、就学において差別を受けることがある。容疑者の発言には、障害者には価値がなく不幸であり存在しないほうがいい、という間違った考えが見られたが、それは社会に残る障害者差別の線上でもある。だがさらに、障害者を積極的に社会から排除すべきという優生思想も語られた。いのちを社会や国家が選別し、無用とされ負担となるいのちを政策的に抹殺しろという主張である。容疑者は国に代わって大量殺人を行ったと自負し、あの行動を「正義」だとも考えている。この確信的な行動は、いうまでもなく、障害者を対象にしたヘイトクライムだ。国際的に厳しい対応が求められる人権侵害である。そのうえ、今回の犯罪は日本が目指してきた共生社会に真っ向から反する「テロ」でもある。
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