今回のマスクの買いだめ騒動のように、他人の行動によって自分の行動も左右される状況は、経済学の「ゲーム理論」で説明できる。他人が買いだめをしているのに、自分がしない場合は損をする。つまり、買いだめの背景には、「自分だけが損をする状況を回避したい」という心理があるといえる。しかし、みんなが買いだめに走ると、社会全体では望ましくない結果となる。普段のような状態に戻るには、全員が「ほかの人も買いだめをしない」という確信を持てることが必要だ。

「マスクが足りないのならもっと作ればいいのに」と思う人は多いだろう。でも、そう簡単なことではない。

 日本で売られている使い捨てマスクの約8割は輸入品で、そのうちの多くが「世界の工場」といわれる中国の製品だった。中国の人件費が日本より安いので、中国で作って日本に持ってきたほうが日本で作るより安上がりになるからだ。でも、新型コロナウイルスの感染拡大は中国で始まった。1月に武漢という都市が封鎖され、中国全土の多くの工場も閉鎖された。日本に輸出される予定だったマスクも作ることができなくなってしまった。

 それならば日本の工場でもっと作ればいいのだが、急に増産するのは難しい。工場や設備を新しくつくるにはお金も時間もかかる。経営者としては、感染が早くおさまれば、新たにつくった工場や設備がむだになるという気持ちもあるだろう。

 マスクだけでなく、日本で使われる多くの製品が現在、海外で作られている。自動車のようにたくさんの部品を使う製品は、日本で組み立てられていても、部品の多くは海外のあちこちで作られている。世界各地の工場が鎖のようにつながっているという意味で、グローバルチェーンという。安く作るための工夫だが、どこか1カ所の工場が止まれば、製品が完成しなくなるという危険もある。世界とつながっている今のものづくりのしくみが、マスク不足とも関係している。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

※月刊ジュニアエラ 2020年7月号より

ジュニアエラ 2020年 07 月号 [雑誌]

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一色清
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