2500年前の思想家・孔子の教えをまとめた「論語」は、生き方の指針となる言葉の宝庫だ。「仁(=思いやり)」を理想の道徳とし、苦しんでいる人の導き方や、苦境に立たされた時の責任の取り方など、迷える現代の子育てにも役立つ言葉がたくさんちりばめられている。親の悩みに対する処方箋として、中国文献学者で、大学生の息子をもつ山口謠司先生が、論語の格言を選んで答えるコーナー。今回は、「生活態度がだらしない親を2歳の娘がまねしないか心配」というワーママからのご相談です。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

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【相談者:2歳半の娘を持つ30代の母親】
フルタイムのワーキングマザーです。私たち夫婦の生活面でのだらしなさを、2歳半の娘がまねしてしまわないか心配です。「だらしなさ」とは、脱いだ靴をしまわない、遅寝・遅起き、電気をつけっぱなしにする……といったことです。娘はきちょうめんな性格で、保育園できちんとした生活習慣を身につけてくれているようですが、肝心の家庭内で、親のだらしない面を受け継いでしまわないか不安です。「見本となるようにきちんとしなくては」と思いつつ、育児と仕事の両立で疲れているのを言い訳に改善できないままです。こんなだらしない母親に叱咤激励をお願いします。

【論語パパが選んだ言葉は?】
・孔子、郷党(きょうとう)に於(お)いて、恂恂(じゅんじゅん)如(じょ)たり。言う能(あた)わざる者に似たり。其の宗廟(そうびょう)・朝廷に在(あ)るや、便便(べんべん)として言い、唯(ひと)えに謹(つつ)しめり (郷党第十)

・門を出(い)でては大賓(たいひん)を見るが如くし (顔淵第十二)

【現代語訳】
・孔子は、郷里においては、おだやかでおとなしく、またお話などまるでできないように見えた。しかし、君主の宗廟や朝廷におられる時は、てきぱきと物を言い、その言語はひとえに謹厳であり、慎重だった。

・家の門を出て、外へ出たならば、あたかも大切な客に会うかのように、敬虔(けいけん)にふるまえ。

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山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。平成国際大学新学部設置準備室学術顧問。大東文化大学名誉教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。ラジオパーソナリティ、イラストレーター、書家としても活動。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

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