このパワーについても、孔子は教えてくれています。

「子曰わく、人の生くるや直し。之れ罔くして生くるは、幸いにして免る」

「直し」というのは、「素直である」という意味です。「自分の気持ちに素直になってはじめて、人は生きることができる」と孔子は言うのです。さらに、「人がもし、素直さというものを失っても生きていられるというのなら、それはたまたま幸いに、難を逃れているだけだ」と。

 素直さを失い、独りよがりの生き方をしていると、さらに孤立していくという負のスパイラルに陥ってしまうでしょう。どんどん人と関わって、分からないことは聞く、教えてもらって、自分に足りないところを見習うようにしてみてはどうでしょうか。その時に必要なのは、「素直さ」です。自分を飾ることでその場を、「たまたま幸いに」やり過ごしても空しくなるだけです。

 相談者さんは、どうか、「素直さ」という明るいパワーで、「孤立」の暗い落とし穴に陥らないようにしてください。

 忘れないでほしいのは、「決してあなたはひとりではない」ということです。あなたやご子息のそばに相談にのってくれる人、助けてくれる人は必ずいます。

 個人的な考えですが、孤立しないために一番いいのは、ご子息と「土をいじる」ことだと思います。種をまいて、野菜や果物がなる木を育ててみる。時間も手間もかかるし、天候にも左右されます。しかし植物が育つのを見るのは楽しいですし、もし収獲できて、それがおいしくて、人に分けてあげられるようなものであればこんなにうれしいことはありません。地域のコミュニティーに共同菜園などがあれば、ぜひ、加えてもらって、土をいじってみてください。ミミズ、カナブンの幼虫、テントウムシとも友達になることができるかもしれません。人とだけでなく、植物や動物、昆虫などにも素直な気持ちで触れ、たくさんの楽しい関係を築いていただければと思います。

【まとめ】
あなたは決して孤独ではない。素直な気持ちでたくさんの人と関わろう。親子で「土いじり」も楽しんでみよう

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ  0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

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山口謠司(やまぐち・ようじ)/文献学者・中国学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞。『ステップアップ0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など著書多数。母親向けの論語講座も開催。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族

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