「未来のエネルギー」と期待された原子力を止めたのは、二つの大事故だった。1986年のチェルノブイリ原発事故(ウクライナ)では、原子炉1基が炉心溶融し、原子炉のふたを吹き飛ばして福島第一原発事故より多くの放射性物質を放出した。事故後、ヨーロッパで反原発運動が広がり、右肩上がりだった世界の原発総数が90年代以降は横ばいになった。

 二つ目の大事故は2011年の福島第一原発事故。世界の原子力産業の斜陽化がいっそう進み、一方で、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー(再エネ)の急伸を後押しした。

 典型がドイツだ。「技術先進国の日本でさえ大事故が起きた」ことに衝撃を受け、22年までに全原発を止める脱原発と、再エネ推進を決めた。「原発事故はいざ起きると大災害になる。原発はしょせん発電の手段であり、手段は再エネなど他にもある」という理由はわかりやすい。スイスや台湾も時間をかけて脱原発を進めていくことを決めた。

 日本はどうか。福島第一原発事故の前、日本には54基の原発があり、発電の25%ほどを担っていた。事故で原発稼働への反発が強まり、これまで21基の廃炉が決まった。再稼働は9基に過ぎない。この結果、19年度の原発による発電量は6%でしかない。再エネは水力を含めて18%。日本は事故後の10年を現実的には「ほぼ原発なし」で過ごしてきた。

 しかし、政府のエネルギー政策としては、原発重視を変えていない。今、日本は「2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロにする」という大目標を掲げている。「実質ゼロ」は、二酸化炭素などを少々出しても森林などが吸収する分を差し引けばゼロになる状態をいう。

 これの達成に政府は原子力を積極的に使おうとしているが、ここはよく考えたほうがいいだろう。福島第一原発事故の経験を踏まえ、世界の潮流を見て、賢明な判断をする必要がある。原発の姿はこの10年で大きく変わった。もう「大事故は起きない」とは言えず、事故への責任もあいまい、発電コストも高くなるなど、信頼感や確実性が失われた。今、原発に多くを頼った将来計画をつくると失敗するだろう。

 今年は重要な「第6次エネルギー基本計画」を議論する。その柱は「原発を新設しない」「原発に頼らず、再エネ中心で『50年ゼロ』の達成計画をつくる」にすべきではないだろうか。

(元朝日新聞編集委員・竹内敬二)

※月刊ジュニアエラ 2021年4月号より

ジュニアエラ 2021年 04 月 増大号 [雑誌]

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竹内敬二
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