【解説】
お答えします。孔子なら、こう言うと思います。
「知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず」(子罕第九)
「物事を判断できる賢い人は迷わない、他人の幸せを考えられる人は心配しない、勇気がある人はおそれない。この三つの心が大切だ」という意味です。
相談者さんは、中学受験という高い山を前に、教育方針がぶれてしまっているようですが、まず、小学2年生である息子さんには「知」「仁」「勇」の三つを教えるべきだと、私は思います。
「知」「仁」「勇」は、孔子の孫・子思が書いたとされる『中庸』という本の中で、「人が体得すべき三つの徳」と、記されています。「正しい知的判断をし、他人を自分の肉親のように大切に思い、勇気を持って行動することで、人生の難局に対処しなさい」と、祖父である孔子は子思に教えたというのです。『中庸』は、儒教の四書のひとつで、江戸時代には、今の小学2年生くらいで教わる本でした。ちょうど息子さんの年ごろですね。
中学受験のための勉強は、志望校に合格するためだけのものではありません。相談者さんは、お子さんに中学受験させることをすでに決めているようですから、ぜひ受験を「知」「仁」「勇」を身につけるためのステップととらえて準備されるのはいかがでしょうか。
「正しい知的判断」「他者との共存」「勇気ある行動力」は、人生のあらゆる場面での「人の意図のくみ取り方」、すなわち「場の空気の読み方」と無関係ではありません。こうした「読む力」は、超難関中学の国語の試験で問われる「読解力」にかなり近いのです。
論理的思考は、数学や理科の勉強を通して養うことができますが、筆者や出題者の意図をくむような深い「読解力」は、「知」「仁」「勇」の三つの総合的な力が求められます。
「知」という漢字は、「矢」に「口」と書きますが、矢を射って的の真ん中に当てるように、きちんと言葉で核心を伝える力です。「仁」は、人や物との関係を大切にする心です。論理では説明できない、他者との関係を読み解く力と言っても過言ではないでしょう。また、「勇」は、「マ」が「人」を表し、「突き通す」という意味の「用」と「力」で成り立っており、これは、「人が困難を突き抜けていく力」を表します。あきらめずにどんな問題でも解く「勇気」がなければなりませんね。
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