息子のランドセル選びに熱心すぎる妻にあきれている夫。ランドセルは記念品か、学用品なのか。「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、「論語」から格言を選んで現代の親の悩みに答える本連載。今回の父親へのアドバイスはいかに。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

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【相談者:5歳の息子を持つ30代の父親】
 来年、新1年生になる5歳の息子を持つ30代の父親です。近年、ずいぶん高価なランドセルが出ているようで、ランドセル商戦も早まっているといいます。妻が「ラン活」(ランドセル活動)に熱心すぎるので、いさめたいです。大量のカタログを取り寄せたのが今年のゴールデンウィーク前。老舗工房の展示会に行き、9万円もするランドセルの購入を検討していましたが、あまりに高額なため購入を躊躇していたところ、この夏には人気色が売り切れてしまい、「一生に一度の記念の買い物なのに」と妻から強く責められました。愛する息子に売れ残りの商品を6年間身に着けさせるのも可哀想とは思いますが、そんな学用品ひとつで小学校生活が左右されるのもおかしな気がします。妻や息子にどう言って納得してもらうのがいいでしょうか。

【論語パパが選んだ言葉は?】
・「子曰わく、孰(た)れか微生高(びせいこう)を直(なお)しと謂(い)うや。或(あ)るひと醯(す)を乞(こ)う。諸(こ)れを其の鄰(とな)りに乞うて、而(しこ)うして之(こ)れに与(あと)う」(公冶長第五)

・「巧言令色(こうげんれいしょく)、鮮(すくな)し仁」(学而第一、陽貨第十七)

【現代語訳】
・「微生高が正直者だと誰がいうのか。彼は正直ではない。その証拠に、彼のところへ酢を借りに行ったところ、ちょうど家になく、隣の家から酢をもらってきて渡したというではないか」

・「巧妙な、飾りすぎた言葉、巧みな顔色、そういう事柄をもつ人物の中には、普遍的な愛の要素は少ない」

【解説】
 お答えします。子どもはとても大切ですね。将来の日本、将来の世界を創っていく彼らに、親は、何を教えてあげることができるのでしょうか。孔子は、「仁(=思いやり)」という言葉で、他者への普遍的な愛を説きました。しかし、「仁」とは具体的にどういうものなのかは教えてくれません。いろいろな事例を挙げて、「『仁』とは何かを自分で考えなさい」と教えています。

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山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。平成国際大学新学部設置準備室学術顧問。大東文化大学名誉教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。ラジオパーソナリティ、イラストレーター、書家としても活動。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

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