「英語で考えや気持ちを伝え合う経験を多くしてほしい。それが英語力の素地になると思っています」(黒木先生)
小学校の英語は、中学で学ぶ内容の前倒しではない。新学習指導要領の作成に携わり、現在は教員研修にも力を注ぐ琉球大学名誉教授の大城賢さんはこう話す。
「小学校の英語の授業は聞く、話すことが中心で、読む、書くは慣れ親しませる程度としています。根底にあるのは、英語はコミュニケーションツールであるという考えです」
例えば、Do you have a pen? と聞かれたとき、Yes,I do.やNo,I don’t.で答えるより、ペンを差し出しながら、Here you are.(どうぞ)と言うほうがよい状況もある。場面や相手の気持ちに応じた心の通ったやりとりができること。これが小学校の英語教育に求められる大きな目標だ。
「新学習指導要領は本来の言葉の役割を踏まえています。かつての英語教育では、いきなり読み書きを習いました。国語の場合、『山』や『川』という文字は、意味がわかり、聞けたり、話せたりした上で、読み書きを習います。英語も同じ順序で学ぶほうが自然です」
一方、大城さんは「まだ課題は多い」と指摘する。
「さまざまな調査から、先生たちの授業に対する不安が見えます。コミュニケーション主体の授業は自身が体験したことがないので難しいのです」
文科省からの委託事業など教員向けの外国語指導力向上の研修を手がける学研プラスの浜田麻由子さんによると、教科化による評価の仕方に悩む教員も多いという。
「そのための研修ですが、受講状況に地域差があるのが実情です」
20年度はコロナ禍の影響で研修動画を配信し、文科省の事業では約2700人の教員が視聴したが、小学校教員に受講を促す自治体もあれば、研修の受講を辞退するところもあったという。また、小学校教員は常に多忙で、研修や授業作りに十分な時間を割けない人も多い。大城さんは「研修の体制を国が整えるべき。先生も学ばなければ教えられない」と憂慮する。
ALT(外国語指導助手)などに頼る方法もあるが、「英語は言語活動なので、児童の実態がよくわかっている学級担任が主導するほうが望ましい」と、黒木先生は言う。
「児童同士のつながりが深くなるのも英語の授業の魅力の一つです。まだ全体としては手探りなので、学校内で教員が連携した授業作りや評価の研究の必要性を感じています」(黒木先生)
(文/稲田砂知子)
※『AERA English特別号「英語に強くなる小学校選び2022」』から抜粋
朝日新聞出版