クラス全員で撮った集合写真を見ると、なぜか自分の顔に目がいってしまう。鏡に自分の顔が映ると、ついつい見入ってしまう。どうやら脳は、「自分の顔」を「他人の顔」とは区別して、優先的に扱っているようだ。大阪大学大学院の中野珠実准教授らの研究グループは、そんな脳のはたらきに関する興味深い事実を探りだした。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」10月号からお届けする。
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自分の顔につい見入ってしまうのはなぜか。この謎に迫るために中野珠実准教授らが注目したのが「サブリミナル刺激」だ。ほんの一瞬だけ画像を見せられると、その時間が短すぎるため、「見えた」という意識がなくても、その人の脳が無意識のうちに画像に反応することがある。これをサブリミナル刺激という。中野准教授は、脳のはたらきを調べるMRI(磁気共鳴断層撮影装置)を使い、サブリミナル刺激による実験を行った。自分の顔の写真を一瞬だけ見せたときと、他人の顔の写真を一瞬だけ見せたときとで、被験者(実験台になる人)の脳のはたらきにどんな違いがあるのかを調べたのだ。
●脳内に「ドーパミン」が出て、何度も自分の顔を見させようとする
実験の結果、自分の顔の写真を一瞬(0・025秒)見せたときには、脳の「腹側被蓋野」という部位がはたらいていることがわかった。腹側被蓋野は、やる気や意欲を引き起こす「ドーパミン報酬系」と呼ばれるしくみのなかで、いちばん重要な部位だ。
例えばキミが一生懸命勉強して、テストで満点を取り先生にほめられたとしよう。すると、腹側被蓋野からドーパミンという神経伝達物質が出て、側坐核や前頭葉と呼ばれる部位に伝わり、いい気分になる。快感を得たことで、キミはまた満点を取れるように、がんばろうと思う。このように、ドーパミン報酬系は、ドーパミンを出して人をいい気分にさせることで、同じ行動を繰り返させようとする。自分の顔を見るときにドーパミンが出るということは、脳は何度も自分の顔を見させようとしているといえる。
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