■中学受験の勉強は早期化している

 最近、わたしは「中学受験勉強の早期化」が進行していることを肌で感じている。従来は小学3・4年生で初めて塾通いをスタートさせる子どもたちが大半だったが、低学年(小学1・2年生)から準備を始める家庭の占める割合が高くなっている。それでは、そのように早期から塾通いを始めた子は、そうでない子と比較したとき、中学入試の結果において「有利」になるのだろうか?

 この質問に対しても、まことに申し訳ないが「わからない」としか回答できない。ただ、その回答に付言するならば、低学年からの塾通いにはメリットもデメリットもある。

 メリットとして挙げられるのは、塾の学習ペースに慣れたり、早い段階から自ら宿題に取り組む習慣を身につけられたりすることで、のちのち塾に「編入」してくるライバルたちに差を付けられるという点である。そして、なんといっても、塾で出会う「学習内容」の面白さに魅了され、学ぶことを積極的に楽しめる姿勢が身につけば、その姿勢は高学年から始める本格的な「受験勉強」の基盤となり、学力を大きく伸ばしていく推力になるだろう。

 一方、デメリットとしては、わが子がまだ学ぶことそのものに対する「構え」を備えていないのに、難しい内容の授業に戸惑い、あれやこれやの課題に振り回された結果、勉強そのものを忌避してしまう可能性がある。わたしはこのようなタイプの子どもたちが自塾へ転塾してきて指導した経験があるが、そのリカバリーはなかなか骨が折れるものだ。

 たとえば、数年前のこと。ある男の子が他塾からわたしの塾に転塾してきた。その彼を担当した講師が困惑した表情を浮かべてわたしにこんな報告をしてきた。

「授業中は楽しそうに参加しているのですが、確認テストを受けるときになると表情が一変し、こわばってしまうのです」

 彼の保護者にすぐ連絡を取ると、こんなことが分かった。

 彼は1年生から塾通いをしていたが、塾のテストのたびに保護者が一喜一憂していたらしい。「喜」のときはよいが、「憂」のときはかなりきついことばを彼に投げつけていたようだった。

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