中学受験の入試を目前に、不安から「受験をやめたい」と言い出す12歳の息子。父親としてわが子にかけてあげるべき言葉は? 「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、「論語」から格言を選んで現代の親の悩みに答える本連載。今回の父親へのアドバイスはいかに。

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【相談者:12歳の息子を持つ40代の父親】

 小6の息子を持つ40代の父親です。息子が中学受験の入試本番を2週間後に控え、不安と焦りから「やっぱり受験をやめたい」と言い出しましたが、今さら受け入れられません。中学受験をすると決めたのは3年前。本人の希望でした。小さい頃からずっとサッカーなど好きな習い事をさせてきて、息子と一心同体でがんばってきました。

 もちろん最終的には本人の意思を尊重するべきでしょうが、受験という重圧から逃げたくて「やめたい」と言っているようなのです。認めれば今後の人生でも逃げる癖がついてしまいそうで、親としては結果にかかわらず、挑戦してほしいのです。「がんばれ」「期待している」と励ますのは、逆効果でしょうか。弱気になっている息子にかけるべき言葉を教えてください。

【論語パパが選んだ言葉は?】

・「子路問うて曰(い)わく、何如(いかん)ぞ斯(こ)れ之(こ)れを士と謂(い)うべき。子曰(い)わく、切切(せつせつ)偲偲(しし)怡怡(いい)如(じょ)たり、士(し)と謂うべし」(子路第十三)

・「子曰(い)わく、歳寒(としさむ)くして、然る後に松柏(しょうはく)の彫(しぼ)むに後(おく)るることを知る也(なり)」(子罕第九)

【現代語訳】

・子路が尋ねた。「どういう人物が志を持った人と言うのでしょうか」
孔子はおっしゃった。「こまやかな親切心で、相手の身になって励まし合い、にこやかに和らぐことができる人のことだよ」

・孔子はおっしゃった。「寒い時期になると、他の草木が枯れ落ちてしまっても、松やヒノキの葉は緑色を保っている。そのように、人間も、本物と偽物とは、危機、艱難(かんなん)に遭遇してはじめて弁別されるものだ」

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山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。平成国際大学新学部設置準備室学術顧問。大東文化大学名誉教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。ラジオパーソナリティ、イラストレーター、書家としても活動。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

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