アメリカで「不登校」は存在しない

 そうした背景から、地域レベルでも家族支援や子育てへの理解と協力がいっそう深まるユタ州ですが、学校へ行かない子どもたちと、どう向きあっているのでしょうか?

 まず、アメリカには日本のような意味での「不登校」という言葉や概念は、基本的に存在しません。アメリカ生活24年の筆者が感じる個人的な視点ですが、日本の「不登校」は教育制度の中で「通常登校すべきもの」という前提があるように感じます。

「行きたくても行けない」「学校に適応できない」「心理的・社会的な背景から登校できない」というネガティブなニュアンスが強いように思えるのです。

 一方アメリカでは、「学校に行かない」状態であっても、それは「学び方のひとつ」。「不登校=登校できないことによる問題」というレッテルにはなりません。

 アメリカでは、家庭学習やオンラインスクールなど、さまざまな選択肢があるので、日本でいう「不登校」という概念自体があまり存在しないのです。

 学校に行かないことが問題ではなく、シンプルに「学び方の選択」の一つなのです。

それでも、親としては受け入れがたい現実

 もちろん、学びの選択肢がさまざまあるからといって、アメリカに住むすべての親たちが、子どもが学校に行かないことをすんなり受け入れているわけではありません。

 筆者の息子は高校2年生(16歳)のときに不登校になりました。州ごとに法律は違いますが、アメリカでは17歳または18歳までが義務教育期間です。

「高卒でなければ良い仕事に就けない」という、親の勝手な固定観念。当時は親としてかなりの葛藤がありました。

 とくにアメリカ人の父親と息子の衝突が多くなり、家の中は重たい空気でどんより。けんかが始まると、息子より2歳年上の娘は、自分の部屋へ逃げるように無言で立ち去ります。そしてけんかがおさまるまで部屋から出てこない。そんな日々の繰り返しでした。

 大自然が大好きな息子は、16歳のときに車で家を飛び出し、暗闇の山奥で車が故障して帰れなくなったことも。

アメリカは16歳から運転免許がとれるため、高校には生徒用の駐車場が広く確保されている
アメリカは16歳から運転免許がとれるため、高校には生徒用の駐車場が広く確保されている

 子育てと仕事のストレスで、当時はパニック障害の症状が出ていた筆者。ときおり襲ってくる発作におびえながら、夫婦で息子の学校のカウンセラーへ相談しに行く日々でした。

後編<アメリカでわが子が「不登校」に そんなとき、親はどうする?【体験記】>に続く

「嫌がる息子を小学校へ連れていくことしか頭になかった」 不登校の息子と向き合った母が考えを変えたきっかけとは【体験記】
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トロリオ牧
アメリカ・ユタ州在住ライター トロリオ牧

2001年渡米、ユタ州ウチナー民間大使。アメリカ空軍認定の自宅を利用した家庭的保育を運営後、児童発達センターで子どもの発達支援・保育に携わる。アメリカ政府職員として17年間務めるが、パンデミックをきっかけに「悔いのない生き方」を選び2023年9月に辞職。現在はNHKラジオ出演や日本のWebメディアで執筆など、幅広く活動中。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

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