日本国内の出生数、出生率の低下に歯止めがかからないことがたびたび話題になっています。2024 年の出生数は約72万人で、9年連続で過去最少に(厚生労働省「人口動態統計」から)。また、23年の合計特殊出生率(1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標)も1.20と過去最低を記録。なかでも、東京都の合計特殊出生率が1を割り込み、0.99になりました。出生率が下がり続ける文化的な背景や恋愛観の変化について、文化人類学者である上田紀行先生の見解をうかがいました。
【マンガ】『毒親に育てられた私が母になる』を読む(全31枚)「家族をもって一人前」の“圧”が消えたとき
――出生率低下の背景には、経済的な事情やライフスタイルの変化などさまざまな事情があると考えられます。人間は恋愛し、子どもを産み育てることに関心がなくなってきていると考えられますか。
人類学の視点から見ると、母親から生まれ、生殖行為を行い、次の世代を産み育てるのが人類のある種の本能として組み込まれているなかで、それにあらがうかのような流れが生まれている、ということなのかもしれません。もちろん、産まない人生を歩むと決めた人もいれば、授かることがかなわなかった人もいるので、一般化するつもりはありません。ただ、ひと昔前までは、「家族をもって一人前」という考えが強く、それが我々の文化が持つ基本的な考えともされていました。
同時に、それは一種の“圧”でもあった。人間は、一連の生殖活動を行う種として考えられていたけれど、“圧”が消えたときに、それを選ばない可能性がある、ということがわかってきた。もちろん、収入が低い、非正規雇用の増加などで将来の見通しが立ちづらいといった経済的、社会的な背景も影響していると思います。
つまり、「子どもを産むことが人間の本能だと思っていたけれど、じつは文化的な側面も大きく作用していた」と言い換えることができる。人間って面白いな、と改めて思いますね。
――人間が「恋愛」そのものに興味がなくなった、という考え方はできますか。
一つ、現代ならではの現象だな、と感じているのが「推し活」です。日々、学生たちと会話をしていても、“推し”という言葉を一日何度も耳にします。ライブに行ったり、キーホルダーをたくさんつけたり、と一方的に好きでいればいいので、精神的に楽なのかもしれません。リアルの恋愛だと、自分が好きになれば相手からの「大好き!」も欲しくなります。でも、自分の“推し”に対しては、一対一の「大好き」は求めていないですよね。旧世代の僕からすれば、なぜそれで満足できるの?となるけど、そこが心地いいのだと思います。
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