罪を犯していないのに、犯罪者として扱われる「冤罪(えんざい)」はなぜ起きてしまうのでしょうか? 昨年10月に無罪が確定した袴田巌さんは、逮捕されてから冤罪を晴らすまでに、58年もの年月がかかりました。“国家による最悪の人権侵害”ともいえるこの出来事から、「冤罪」や「死刑制度」について考えてみましょう。『ジュニアエラ2025年1月号』(朝日新聞出版)から紹介します。
【表】死刑制度を廃止・維持している主な国は?国家による最悪の人権侵害に
1966年に静岡県で起きた一家4人殺害事件で死刑判決を受けた袴田巌さん(88歳)に、やり直しの裁判(再審)で無罪が言い渡され、2024年10月に確定しました。袴田さんは30歳で逮捕されましたが、やっていないと訴え続け、58年がかりで冤罪※を晴らしたことになります。
再審が開かれることはめったにありません。開始するには、無罪を言い渡すべきことが明らかな新証拠を裁判所が認めることが必要で、そのハードルは高いのです。袴田さんの事件では、再審をするかどうか決める審理で、検察側が裁判所に求められ、袴田さんに有利な証拠を出したのが決め手になりました。
10年前に再審開始が決定して釈放されるまで、袴田さんは拘置所の狭い部屋で一人、死刑になる恐怖と向き合っていました。そのため心の病気になり、今も回復していません。
袴田さんが経験したことは、国家による最悪の人権侵害といえます。1980年代にも4人の死刑囚が再審で無罪を言い渡されていました。
世界の7割超が死刑廃止の流れ
国家が個人の命を奪う死刑には、さまざまな問題があります。とりわけ、執行されたら取り返しがつかないという刑の性質は、人間が行う裁判の間違いをゼロにはできない現実と大きく矛盾しています。
近年、海外では死刑廃止の流れにあり、制度は残っているが執行はしていない国々も含め、死刑廃止国は国連加盟国の7割を超えています。日本はこのまま死刑制度を持ち続けるべきか、社会全体で議論を深める時期にきています。
朝日新聞出版